大雪-小学生の自転車教習(2018年12月7日 晴れ 最高気温 -4℃、最低気温 -10℃)
唐突ですが、『信号を待てない』のです。
北京に暮らして4年半、傍若無人の電動自転車や小型バイクはいうに及ばず、歩行者も、最近すたれ気味のシェア自転車も、信号無視が当たり前の世界にどっぷりつかったこの体は、赤信号が赤に見えず、中国の方々に遅れまいと、時には彼らの先頭に立ち、時には彼らを楯のようにして、どんな道でも立ち止まることなく渡ってしまうのです。
【今日は最高気温でも-4℃と極寒になりましたが、写真は真夏に撮ったものです。3人乗りでノーヘルという、北京でときおり見かける光景です。中国では写真のようにバイクに乗るとき、ほとんどの運転手がヘルメットを着用しません。しかし、法律上は着用義務があるのです】
一方、車のほうも、中国では、車は日本と逆の右側走行で、前方が赤信号であっても右折ができるという交通ルールがあるため、歩行者が青信号で横断歩道を渡っていても、その歩行者の左側から、車が猛スピードで突っ込んでくるのです。運転手はルールで許されているためスピードを緩めません。結果として、歩行者は青信号でも横断歩道を渡れないという事態になり、赤でも青でも関係なくなってしまうのです。北京の街を歩くつどに、中国は、「歩行者優先」の意識などまったく無く、完全な「車優先」の社会であることを実感します。
車に乗ると、後方確認などをまったくしない車線変更や急な割込みは日常茶飯事で、まるで度胸試しのようです。よくまぁこれで、事故が起きないのかと思いますが、接触事故などは頻繁に発生しています。
【バイクの交通事故。いま流行りの食事配達バイクは時間に追われて無謀な運転をしがちです】
先日、ある友人から、小学校の自転車教室を見学できるという話がありました。それを聞いたとき、譲り合いの精神など露ほどもない、仁義なき戦いといったほうが適切な中国の交通事情のなかで、小学生たちにどのような教育が行われているのかという興味がわきました。
【北京市京源学校蓮石湖分校、後ろは高層マンション群】
訪ねたのは『北京市京源学校蓮石湖分校』。この長い名前の学校は、小中一貫の学校で、北京の母なる川といわれる永定河のほとり、首都鋼鉄という巨大な製鉄工場の跡地の南端に位置しています。
この分校は、写真のとおり、周辺の高層マンション群の付帯施設として、4年前に開校しました。現在、小学校6学年、中学校1、2学年まであり、学生数は8学年合わせて900人、昨年が600人でしたので、たった1年間で300人増という中国の急成長を具体的にあらわしている学校です。
【体育館にきた生徒たち。少しもじっとしていません】
この学校の課外授業は全部で37、サッカー、バスケットなどのスポーツ系、科学や京劇などの文科系に分かれていて、特に京劇は劇場で披露されるほど優秀な実績を収めているそうです。
この課外授業の一つである自転車教室は、毎週1回1時間開かれます。教えるのは、田さんという自転車の審判資格(こんな資格があることをはじめて知りました)を持ち、自転車大会などのイベントの企画・運営をなりわいとする方を筆頭にして、数名の自転車愛好者たちです。
【体育館から自分の自転車を運ぶ】
3時を過ぎると、こどもたちが三々五々、校庭に出てきます。不思議なことに、チャイムが鳴らないのです。日本の学校といえば、チャイムの音で始まり、チャイムの音で終わりという区切りがありますが、この学校ではなんの音もなく、こどもが集合すれば始まり、一定の時間になれば終わるのです。
【集合した生徒たち】
自転車教室の生徒は定員30名で、1学期(半年間)固定制です。希望者は学期前にネット申請し、先着順で受け付けるそうです。生徒たちの集合した姿を見ると、低学年から高学年まで、バランスを考えて配分しているようです。
【颯爽と自転車に乗る生徒たち】
生徒たちは体育館から自分の自転車を持って、校庭に集合し、教師からの説明のあと、3チームほどに分かれて自転車に乗ります。それぞれのチームには田さん以下の自転車愛好者が引率し、生徒たちは、サッカー、バスケット、ローラースケートなどの課外授業を横目に見ながら、颯爽と自転車を走らせます。別の課外授業と思いますが、TVカメラなどの撮影機材を囲んだグループが、自転車に乗る生徒たちを写しています。
【ローラースケートの課外授業】
しかし、生徒たちは校庭をぐるぐる回っているだけで、期待していた信号を守るとか、車道をどのように渡るかといった「車優先」の社会のなかで、こどもたちが生き抜く術(すべ)のようなものは教えないのです。
たまりかねて、田さんに安全について聞いてみました。
【生徒に自転車の乗り方を教える田さん】
「安全には十分注意しているよ。ヘルメットは必ず着用し、こどもにけががないように配慮している。この教室はまだ3年しか経っていないが、1件の事故も無いんだよ」
「んんん? いえいえ、そうでなくて、中国の交通事情は厳しく、子供たちが普通の道で自転車を乗っている場合の安全について聞きたいのです」
「んんん? これまで自転車は乗るのが当たり前で、だれも教えなかった。それで、みな自己流に乗っていたんだ。この教室は、中国全土で正しい乗り方を教える一番最初のものであり、ただ一つのものなんだよ!」
「んんん?……」
【校庭の真ん中でサッカーをする生徒たち】
最後は胸を張られてしまいました。わたしの中国語レベルの問題もありますが、トンチンカンな会話になってしまいました。どうも消化不良で、聞きたいことも上手く聞けず、見たいと思ったことも見れない1日となりました。
しかしよくよく考えると、中国の交通ルールが、どんなに危険で、ひどいものであっても、それは彼らが生まれたときからあり、彼らにとっては当たり前のものなのです。それをひどいとかひどくないとか、仁義なき戦いとか言っているのは、外からきた人間だけなのです。
【撮影班の生徒が自転車授業を撮っていました】
お金持ちとなった中国の人たちは、日本を含めて多くの国へ海外旅行に行くようになり、マナーやマネーの問題などいろいろな話題を提供しています。しかし、他の国をみる、ひるがえって自分の国と比較するということは、中国の人々にとって、とても大切なことで有ると思います。それらを通じて、小さな声が大きな声となり、改めるべきことはあらためられるようになることを期待します。
【自転車を停めるときは、片手を挙げて合図していました】
同時に、日本の皆さんも中国が嫌いとばかり言っていないで、どんどん中国に来て、中国のことをみてください。そうすれば、あたなは中国の良さばかりでなく、日本の良さも改めて知ることになるはずです。ただし、信号を渡るときだけは、十分に注意していただきたいと思います。
文・写真=北京事務所 谷崎 秀樹
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