清明-北京の成人式(2018年4月5日 曇り 最高気温 9℃、最低気温 1℃)
昨日夜、北京では珍しく雪が降り、今日は冬に戻ったような寒い1日となりました。4月となり、暖房用のスチームはとっくに供給停止となっています。そのため、部屋のなかで何枚も重ね着をして、ジャンパーを羽織り、首にはマフラーを巻いて、太ったねずみのようになって寒さをしのいでいます。
さて、中国の成人年齢は18歳です。
日本では正月明けに市町村毎に成人式を行うのが一般的ですが、中国では春に高校毎に行われます。中国の大学入学の統一試験は毎年6月7日、8日に固定されていまので、高校の成人式は統一試験に向けた決起大会の意味も込められています。
【孔子廟の先師門】
先週、孔子廟を訪れました。孔子廟の正門である先師門を入ると、沢山の若者が儒者のような服(中国では「漢服」という)を着て集まっています。彼らは孔子が祭られている大成殿の前の広場に整列し、儒教式の成人式を始めたのです。ところどころに立てられているのぼりを見ると、「中国人民大学付属高校第二分校」とあります。
【漢服を着て整列する生徒たち】
中国では公立高校のほかに、日本とほぼ同様の民間経営と言われる私立高校があります。今回の主役である中国人民大学付属高校第二分校も私立高校です。この分校は中国人民大学という有名大学と提携し、実質上は名を借りて、生徒を集めているのです。
ちなみに、中国人民大学付属高校という第二分校とは違う高校があります。こちらは公立の重点高校で、北京の高校のランクではトップクラスです。
学費(1年間)の一覧表をご覧ください。公立高校の学費は普通校で700元、重点校でも1,600元と安価です。それが第二分校のような私立高校では1~2万元と、公立普通校に比べて20倍前後に上がります。
現在、北京には米国と中国の二つの教育課程を教える国際学校が70校余りあります。その中で、学費が20~25万元(340~425万円)という超高額の国際学校は7校あります。この金額は公立高校の350倍以上であり、こんなところにも中国の格差の凄さが表れています。日本でも支払えないほど高い学費を払ってでも子息を国際学校に通わせるのは、中国の高校への失望とアメリカ留学への期待が織り交ざっていると思います。
【大成殿の前で決意表明する生徒たち】
話を本題に戻しますが、ちょっとだけお金持ちの中国人民大学付属高校第二分校の3年生80名ほどの成人式は、男女各1名の生徒の司会で始まりました。冒頭、学校長の挨拶があり、次いで父母代表の挨拶、教師への感謝、生徒代表の決意表明など型どおりに行われていきます。その後、4人の生徒が勤勉を意味する青菜、聡明を意味するねぎなど四種類の食べ物を孔子と弟子たちの位牌がある大成殿に奉納したのち、全員がこの大成殿に向かって、両手を伸ばして胸の前で握り、そのまま頭を下げるという儒教式の礼をしました。
【孔子の格好をした司会者】
そして、孔子のような格好をした人物(恐らく孔子廟の関係者と思われる)が、おごそかな声で朗読をはじめます。
中国人ならば誰でも知っているとおり、『論語』第1行には「学んで時にこれを習う。また楽しからずや」と有る。
君達は、6月の大学統一入試を控えている。これからの2ヶ月という時間のなかで、更に努力し、学び、自分の力としていかねばならない。統一入試に当たっては、これまでの学習の成果を思う存分発揮せよ。そして、大学入学の後も学ぶことを楽しみとして、勉学に励んでいかねばならない。
孔子は儒教のなかで孝を説いた。孝は両親への敬愛ばかりでなく、祖先から君達へと連綿と受け継がれてきた血統に対する感謝を含んでいる。祖先、両親がいなければ、今の君達は存在しない。
今日、この日を迎えることができたのは、両親の18年間に亘るはぐくみのおかげである。楽しみがあれば一緒に笑い、悲しみがあれば一緒に泣いてくれた両親との一つ一つの記憶を思い出して欲しい。そして今日、成人を迎える君達は両親の温かいぬくもりから巣立っていく。自らの足で大地をしっかりと踏みしめ、自らの将来を自らの力で切り開いていくのだ。
これより、両親に拝跪(はいき、ひざいずいて拝むこと)を行う。この拝跪は、両親に対する孝ばかりでなく、過去の祖先に対する孝、未来の君達自身に対する孝でもある。感謝の念を持って行って欲しい。
【親に拝跪する生徒たち】
【父親に笄(こうがい)を挿してもらい、泣き出す生徒】
【抱き合う親子】
この朗読にあわせて生徒が自分の親に三回拝跪します。それが終わると次に、親がわが子に対して、男子ならば冠をかぶせてやり、女子ならば笄(こうがい)を挿してやり、成人となった証とします。晴れて成人となった後、生徒と両親は抱き合います。この間、思い余って泣き出す子も多くいます。
【最後の宣誓】
最後に、生徒全員が右手を握って顔の近くにもっていく姿勢で宣誓を行いました。この宣誓は、3月の全人大で習近平氏が国家主席に就任した際、初めて行って話題となったもので、早速取り入れられたようです。こうして1時間余の成人式が終了し、全員で記念写真を撮って解散となりました。
【成人式終了後の記念撮影】
今回の孔子廟訪問では、偶然、私立高校の儒教式の成人式に出くわしたために、その模様を紹介しました。次号では、引き続き孔子廟を題材にして、儒教について考えてみたいと思いますので、お付き合いいただければ幸いです。
文・写真=北京事務所 谷崎 秀樹
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