【北京の二十四節気】小満-老磁器口豆汁店-

小満-老磁器口豆汁店(2018521日 小雨 最高気温 18、最低気温 14

 

今日は北京では珍しく雨模様となり、気温も20℃を切り、肌寒くなりました。

さて、今回の主役である「豆汁」は、味噌汁やスープではありません。

兎に角、臭い。

例えていうならば、くさやのつけ汁、といったところです。

この豆汁(「とうじゅう」と読むのでしょうか)、中国のどこの地域にもない北京独特の飲み物なのです。

 

豆汁

 

北京っ子以外、ほとんどの中国人は豆汁を飲めません。

まず、臭いを嗅いだだけでギブアップします。

私の知り合いには、地方から出てきて数十年北京に住み続け、北京人となんら変わらない人が多くいますが、彼らでさえ、豆汁と聞いただけで拒否反応を示し、苦虫をつぶしたような顔になります。

 

【緑豆の団子スープ3.560円、レンゲに載っているのが緑豆の団子)。左上が緑豆の菓子2元(約34円)

 

豆汁は緑豆を搾った上澄みのことです。

緑豆(「りょくとう」。「りょくず」とも言う)は、日本では馴染みが薄いですが、中国では一般的です。緑豆を水に浸して皮をむき、細かく砕いて、新しい水とともに釜の中に入れ、一晩寝かせます。寝かせている間に、発酵が行われ、重量のあるものは釜底に沈殿していきます。

底に沈殿したものが澱粉として菓子やはるさめなどの原料となり、残った上澄みが生の豆汁となります。北京以外の地方でも緑豆の加工は行われていますが、澱粉に加工するのが本来の目的であるため、上澄みは全て捨てられています。

 

【店外にまで並んで食券を買う人々】

 

北京の人だけが、捨てられる上澄みを後生大事に飲んでいるのです。それは、彼らが昔から環境意識が高かったわけではなく、単に水が不味く、不足していたことが大きな要因と思います。今でも北京の水は硬水で美味しくありません。清の時代などでは、飲料水を天秤棒に担いで売り歩く商売があったほどです。つまり、水はお金を出して買うほど、貴重なものだったのです。そのため、いつのころからか、誰も飲まない上澄みを無理して飲み始めたのではないかと思います。

 

大きな桶から豆汁を掬う服務員

 

それがなんと、臭い上澄みを飲んでみると、ビタミンC、たんぱく質、繊維質などが豊富で健康によいことが分かったのです。今ではダイエット効果もあるといわれています。更に、夏は発汗作用により暑さをやわらげ、冬はその熱さにより体を温めてくれるのです。こうして北京の人たちは小さいときから一年中、それも三度の食事や休憩時などいつでも豆汁を口にするようになったのです。

 

【写真中央が豆汁2元(約34円)、その上が焦圏(豆汁と一緒に食べる小麦粉を揚げたもの)1.5元(約26円)、右がつけもの(焦圏と同じく豆汁の付け合せ)1元(約17円)、左が麻豆腐(豆汁の搾りかすを炒めたもの、おからの緑豆版)16元(約270円)

 

飲み慣れると、臭いも香ばしい匂いとなり、酸いだけでなく甘みを感じるようになります。遂にはあの臭さがくせになるのです。北京っ子は外地の生活が長くなると、一番先に頭に浮かぶのは豆汁だそうです。まさにソール ドリンク、「やめられない、とまらない」といったところでしょうか(古くてスミマセン)。

私も何度か飲みましたが、あまり抵抗はありませんでした。日本人のほうが雑食性が強く、食に対して保守的な中国人よりも許容範囲が広いのかもしれません。しかし、くせになるまでには、あと20回は通う必要が有るかと思います。

 

【店外の食事風景、後ろに見えるのが天壇公園の北門】

 

老磁器口豆汁店は、1970年代に磁器口という場所で営業を始めたために、この名前になりました。今回訪問したのは、天壇公園の北門の向かいにある本店です。その他市内に支店が3ヶ所あります。

 

【ガラス越しに注文した品を交換しようとする人たち

 

先ほど一晩寝かした上澄みは生の豆汁と紹介しましたが、これはこれで飲めますが、一般的には、生の豆汁を再度火にかけます。再度火を通したほうが、臭いが強烈になるそうです。この店では、持ち帰って自宅で温める生の豆汁とその場で飲む火を通したものの2種類を売っています。

 

【人でごった返す店内】

 

店内は30坪ほどの広さで、座って食事をする人、席の空くのを待っている人、食券を買ったり、注文した品を交換する人などで、ごった返しています。座りきれない人たちは、店外の青空の下で、プラスチックの簡単な椅子に座り、小さなテーブルに顔を合わせながら食事をしています。ときおり、高級車が停まり、ラフな格好をしたおじさんやおばさんが生の豆汁をテイクアウトしていきます。隣に座った上品そうなおばあさんに話を聞くと、ここには毎週23回は来て、豆汁を飲むのを楽しみにしているそうです。

 

【なぜかおじさんに睨まれてしまいました】

 

鼻をつままないまでも、臭く酸っぱい豆汁を少しずつ飲みながら、混乱の極度にある店内を見ていると、猥雑のなかにもなんとなく秩序があることに気づきました。日本ならば手が出るか、ネットが炎上しそうな荒れ様ですが、しばらくするとなんとなく収れんされていくのです。ここら辺が中国の素晴らしく、不思議なところなのかもしれません。

豆汁を飲み終わって額の汗を拭うと、自分が北京にいることを改めて思い知らされました。

文・写真=北京事務所 谷崎 秀樹

 

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★本コラムについてはこちらから→【新コラム・北京の二十四節気】-空竹-



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