【弊機構海外アドバイザーより寄稿】『鋼鉄が踊れる時:宇樹科技が四足ロボットを再定義する』

◆一般社団法人日中投資促進機構の海外アドバイザー 郭 文軍様より寄稿11◆

一、研究室から街頭へ:四足ロボットの進化革命
 2016年、26歳の王興興が杭州のガレージで宇樹科技(U-Robotics)を創業した当時、四足ロボット市場はボストンダイナミクスの独占状態にあった。同社のSpotロボットは7万5000ドル(テスラModel S相当)という高価格帯を維持していた。宇樹科技は7年をかけて「技術民主化」を実現し、2023年発表のUnitree B2では運動性能でSpotを上回りながら、価格を3万ドル以下に抑えることに成功した。
 技術的突破口は独自開発の「油圧-モーター複合駆動システム」にある。従来の四足ロボットが20個以上の精密サーボモーターを必要としたのに対し、油圧蓄能装置を組み合わせることで、主要関節のトルクを40%向上させつつ消費電力を35%削減した。更に「動的重心補償アルゴリズム」により、単脚懸空状態でも平衡を維持可能となり、Unitree Go1は礫原での歩行安定性97.5%という業界最高水準を達成している。
二、ロボットの「生存能力」再定義
 2022年瀘定地震救援では、宇樹H1ロボット3台が歴史的活躍を見せた。72時間連続稼働で7箇所の崩落区域を突破、熱画像センサーを人間の救護隊が到達不能な瓦礫隙間に到達させた。余震発生時の落下岩石衝突後も自律的に運動モードを調整する様子は、同社ロボットの環境適応性と耐損傷性を実証するものとなった。

出典:宇樹科技

 モジュラー設計による「断脚生存機能」が特徴的だ。脚部損傷時、中央制御器が0.3秒で動力配分を再計算し、三脚甚至いは二脚モードへ移行する。IP68防水防塵性能により豪雨中の点検任務も可能で、2023年ハルビン氷雪大世界での極寒試験では-41℃環境下12時間連続稼働を記録した。
三、四足ロボット商用化の成功方程式
 宇樹科技は実験室を超えた独自のビジネスモデルを構築している。蘇州の自動車工場では28台のA1ロボットが世界初の「柔軟生産ライン監視システム」を構成。従来の軌道式点検車を代替するだけでなく、ラックを自律登攀して高所在庫を確認し、故障対応時間を45分から8分に短縮した。年間300万元以上の保守コスト削減効果を生んでいる。
 消費者市場では「Robot as a Service」モデルを開拓。上海の高級住宅団地では巡回ロボットを月極リース方式で導入し、昼間は宅配便輸送、夜間は自動警備に活用している。設備稼働率82%という数値は、従来産業用ロボットの平均30%を大きく上回る。2024年3月現在、20業種以上に導入され、総走行距離500万kmを突破している。

出典:宇樹科技

四、機械と人間性の新たな均衡
 杭州アジア大会の聖火リレーで宇樹ロボットが示した45度點頭の「儀礼動作」は注目を集めた。単純なプログラムではなく、同社感情相互作用研究所が開発した「状況適応型儀礼システム」によるものだ。人間の表情・動作・声調を分析し、鞠躬角度や歩行速度を最適化することで、効率性と人文的温かみの両立を実現している。
 この「技術温情主義」は製品哲学の根幹をなす。教育版ロボットに搭載の「誤動作表示モード」は意図的な転倒動作を通じて制御原理を学ばせ、老人ホーム向け機種では歩行速度を高齢者の歩調に自動同期する。給水時の機械腕は常に20cmの安全距離を維持するよう設計されている。
 工業4.0から生命圏共生へ、四足ロボットが工場を超え、救助隊員・教育パートナー・芸術媒体へと進化する過程で見えるのは、単なる技術革新ではなく「デジタル生命体」の誕生である。同社創始者の言葉を借りれば「我々は動く機械ではなく、生存知恵を持つデジタル生命を培養している」。この進化の軌跡に、中国発のロボット文明が新たな一頁を刻みつつある。