昨年末、中国はそれまでのゼロコロナから急転直下の政策転換で、厳しい規制が一気に緩和されました。その後は周知の通り、多くの感染者が出てました。中国内に居る知り合いの内、8割から9割ほどが陽性者になった、という「肌感覚」です。
その中で、一昨年卒業して帰国した教え子の一人(後に陽性になった)から、感染に備えてたくさんの漢方薬(下記写真)を買い占めて家で籠城したとの連絡を受けました。
この写真を見て思わず絶句してしまいました。このような行動に走っているのが教え子に限らず、薬局は一時期品切れというニュースから、多くの市民は一種の「パニック買い」に陥ったのではないかと思います。確かに、3年ほど続いたゼロコロナの政策により、この新型ウィルスに対する恐怖感が消えることなく、落ち着いて冷静に物事を判断する余裕がなくなったのかもしれません。
似たような事例ですが、2011年「3・11」の直後、中国内でも一時期「放射線パニック」が起こり、その時は北京にいましたが、市内のスーパーで食塩の「パニック買い」が起きました。食塩に含まれるヨウ素が放射能汚染を防ぐという情報が広まり、塩の価格が急騰して、多くの市民は食塩の買いだめに走りました。ところが、このうわさは数日のうちに立ち消え、今度はその塩を持て余して困る羽目に(ある市民はなんと30年分の食塩を買ったという)。
これらの事象を思い浮かべながら、約半世紀前の「国民的健康ブーム」を思い出すに至りました。
・甩手(手を前後に振る)
1970年代前半という記憶です。約半年ほどの「持続期間」でしょうか。当時小学生の自分の周りで、四六時中にこの「甩手」に励んでいる人たちを見かけました。動作は至極簡単で、直立不動の姿勢で両手を同じ方向で前後に振る、という仕草です。また、後ろに振る時に目一杯振りますが、前に振る時に力を抜いて振り子のように戻します。初心者は2~3百回の繰り返しで、その内に千回まで増やします。一日3回のこの「健康法」は、関節炎や高血圧から、便秘、白内障、さらにガンにまで効くと言われており、一時期、街中にこの「甩手療法」の姿が溢れ、まさに「国民的健康ブーム」となりました。
しかし、半年ほど経ったところ、この「甩手療法」はそれほどの効用がないと分かり、さらに何人かやっている最中に心臓発作が起こり亡くなったという噂が流れました。これでブームが一気に萎み、やる人はほとんど居なくなり、あっ気ない幕引きとなりました。
・紅茶菌(紅茶キノコ)
これは1980年代初期、大学生時代の思い出です。地方の大学に行っていた私は夏休みに北京の実家に戻ったところ、各家でこの「紅茶菌」を作って瓶詰していた様子を覚えています。
以下は紅茶菌の解説で、併せてご参考下さい。
※紅茶キノコ(コンブチャ/Kombucha)とは、東モンゴル・満州発祥の発酵飲料と言われる。紅茶キノコという名前の通り、紅茶(または緑茶)に砂糖と「スコビー(Scoby)」というキノコ状の物体(母株)を漬け込んで作る飲み物である。(注:昆布茶と全く別物)
当時、この紅茶菌は「包治百病」(万病に効く)といわれ、人々は毎日欠かさず飲んでいました。結局は、前記「甩手療法」同様、あまり長く持続できませんでした。
健康で、長生きする、これは誰でも望んでいることでしょう。そのため、様々な健康法や治療法を探し求めるのが、未来永劫に続いていくものだと思います。また、スマホやSNSが著しく発達している現代社会では、情報の拡散は恐ろしいほど速くて、その範囲も広い。そうした状況の中、科学的根拠を基に、冷静に判断するのはむしろ一層困難になる恐れがあります。「特効薬」はないと思いますが、過去の経験知(失敗事例)は時には役に立つかもしれません。
雷海涛(2023年1月)