【アメリカ発チャイナウオッチ】『第5回:中国のゼロコロナ政策緩和がもたらす不安と期待』

筆者が現在居住する米国カリフォルニア州では、アジア系住民が多いことを反映し、2023年から旧正月が州の公式な祝日となった。旧正月当日の1月22日前後には、近隣の大学のキャンパスや寮、観光地、公立図書館などでも関連イベントが多く開催されていた。

一方、中国は、2019年以来4年ぶりに移動制限のない春節を迎えた。春節休暇中(1月21~27日)の旅行者数は3億800万人(2019年対比88.6%、前年比+23.1%)、旅行収入は3,758億元(2019年対比73.1%、前年比+30.0%)、旅客数は2億2,564万人(2019年対比53.6%、前年比+72.2%)と、いずれもコロナ前の水準には至らないものの、前年比では大幅に回復した。

その背景には、12月7日に中国政府がゼロコロナ政策の大幅緩和に舵を切ったことがある。高リスク地域での移動制限や入国時の隔離は維持するも、PCR検査の縮小、無症状・軽症者の自宅隔離容認、都市や省を跨ぐ移動に対する陰性証明・健康コードの提示不要化など、踏み込んだ措置となった。さらに2023年1月8日からは、入国時の隔離措置を撤廃、新型コロナの感染症分類の引き下げに伴いリスク地域の設定や感染者の隔離措置も解除し、ウィズコロナへの取り組みが本格始動した。

しかし、高齢者へのワクチン接種や医療体制の整備が不十分な段階で、急速に感染対策が緩和されたため、12月以降、主に都市部で新規感染者や重症者が急増、いわゆる感染爆発が発生した。発熱外来受診者数が12月23日、入院中の感染者数が1月5日をピークに減少に転じたとの衛生当局の報告を踏まえると、2022年12月末~2023年1月初には感染第1波のピークを越えた模様だ。道路混雑状況や地下鉄乗客数を示す日次データも、全国平均では12月末から改善傾向に転じている。

1月下旬までに人口の約8割が感染したとの専門家の発言[1]を踏まえると、短期的には全国レベルで感染第2波が発生する可能性は低い。ただし、春節休暇前後の移動者数増加により、医療体制が脆弱な農村部で感染が拡大する可能性や、水際対策の緩和に伴い海外で広がる変異株が国内に持ち込まれる可能性はあり、引き続き注視が必要な状況である。

ゼロコロナ政策緩和を受けて、中国経済が個人消費を中心に回復するとの期待が市場を中心に高まっている。今年は欧米経済を中心に景気後退が見込まれるため、世界経済の下支え役として中国経済に期待する見方が多いようだ。他方、中国で感染再拡大が発生し、景気停滞が長引くような場合には、需要減退やサプライチェーンの混乱を通じ、世界経済全体を下押しすることとなる。中国からの出国者数増加に伴う、世界的な感染拡大や新変異株発生のリスクもある。いずれにしろ、ゼロコロナ政策緩和後の中国経済の行方には、その世界経済・社会への影響の大きさから、当面目が離せないだろう。

ゼロコロナ政策緩和による米中関係への影響について考えてみると、先端技術や台湾、人権をめぐる両国の対立が長期化する中でも、人の往来が容易になることにより、対立先鋭化を避けるための対話の活性化が期待される。実際、2月にはブリンケン国務長官の訪中が予定されているが、これはバイデン政権下での初の国務長官の訪中となる。また、イエレン財務長官も「近い将来」に訪中を計画している模様だ。

政府高官の往来のみならず、ビジネス目的の往来の拡大も見込まれる。米国企業へのアンケートによると、米国企業はゼロコロナ政策による悪影響を対中ビジネス課題のトップに挙げていたが、同時にゼロコロナ政策の変更により中国市場に対する見方が元に戻るとの回答も86%にのぼった[2]。86%のうち約半数の44%は、中国市場に対する自信を回復するのに数年かかるとの見方を示しており、当面は様子見姿勢が続くとみられるが、少なくともゼロコロナ政策による先行き不透明性が投資を阻害するといった悪影響は緩和されるだろう。

さらに、近年落ち込んでいた中国から米国への留学、そして米国から中国への留学も回復に向かうことが期待される。米国の国際教育研究所(The Institute of International Education)の統計によると、増加を続けてきた中国から米国の高等教育機関への留学生は2019年度(2019年秋~2020年夏)をピークに急減、 2021年度は約29万人と2014年の水準にまで落ち込んだ(下図)。米国から中国への留学生も、2019年度、2020年度ともに前年比約▲80%と大幅に減少、2020年度には1999 年度の統計開始以来最低水準を記録している[3]。今後、双方向の留学が本格的に再開し、対立長期化の中でも草の根レベルで次世代の相互理解が深まることを願いたい。

(図表)中国から米国、米国から中国の高等教育機関への留学生数

(出所)The Institute of International Education, “Open Doors Report”

玉井芳野(2023年1月)

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[1] 「春节期间还会发生第二波疫情吗?吴尊友最新研判」新浪網、2023年1月22日。
[2] US-China Business Council Member Survey 2022。調査期間は2022年6月中、対象企業は会員企業117社
[3] 2021年度のデータは未公表。