2022年11月14日、習近平国家主席とバイデン大統領による初の対面での首脳会談がインドネシア・バリ島で行われた。対面での米中首脳会談としては3年5ヵ月ぶりの開催となった。習氏は第20回中国共産党大会(10月16~22日)での総書記3期目続投決定、バイデン氏は米国中間選挙(11 月8日)での民主党の予想以上の善戦、とそれぞれが内政イベントで大きな成果を得た後の会談ということもあり、両首脳ともに柔和な表情を見せていたのが印象的だった。
米中対立が長期化する中、また今年8月にはペロシ米下院議長による台湾訪問を契機に両国の緊張が高まる中、ようやく対面での首脳会談を実施でき、衝突回避のための対話継続や、気候変動など共通の課題での協力深化で両者が合意できたことは、ポジティブに評価できるだろう。首脳会談実施後には、易綱・中国人民銀行総裁とイエレン米財務長官、王文濤・中国商務部長とタイ米通商代表部代表、魏鳳和・中国国防相とオースティン米国防長官の会談など、経済や安全保障分野で高官の対面会談が相次いで再開され、各分野で意思疎通を図ろうとしていることもうかがえる。
他方で、これまでのテレビ会議や電話での米中首脳会談の内容と同様、台湾問題や人権、経済をめぐる対立が改めて示された。両国が最も激しく対立する台湾に関しては、米国側は中国の一方的な現状変更による台湾海峡の不安定化を批判する一方、中国側は「台湾問題は米中関係における超えてはいけない最重要のレッドライン」と強調、米国側に「1つの中国政策」の順守や「言行一致」[1]を求めた。人権については、米国側が新疆ウイグル自治区やチベット自治区、香港をめぐる状況について懸念を表明する一方、中国側は米中それぞれの国情に合った民主主義があり「権威主義に対抗する民主主義」という構図は時代の趨勢にそぐわないと反発した。さらに経済については、米国側が「中国の非市場的な経済慣行が米国の労働者に悪影響を与えている」と指摘する一方、中国側は「経済、貿易、科学技術交流の政治化に反対する」と述べ、半導体など先端技術の対中輸出規制といった米国側の経済制裁を批判した。
したがって、今回の会談は衝突回避という前向きなメッセージを発信しつつも、対立構造には変化がないこと、双方が長期対立を覚悟していることを改めて世界に示したといえよう。実際、中国の第20回党大会冒頭に習氏が発表した報告では、直接的な米国への言及はなかったものの、中国が置かれている環境について「外部からの抑圧・阻止はいつエスカレートしてもおかしくない」と表現、経済政策に関しても「科学技術の自立自強」のためイノベーションを担う人材育成に注力すること、食糧・エネルギー・サプライチェーンなど経済安全保障を確保することなどを盛り込むなど、米国との対立長期化への警戒が示唆された[2]。米国側も10月に発表した「国家安全保障戦略」で「中国は米国にとって最も重大な地政学的課題」「中国は国際秩序を再構築する意図と、そのための経済・外交・軍事・技術的な力を併せ持つ唯一の競争相手」「中国との競争において、今後10年間が決定的な10年間になる」と述べ、中国との競争を中長期的課題として位置づけた[3]。また、米国の有識者たちの多くが、2024年の米大統領選で仮に共和党の大統領が誕生しても、対中強硬路線が継続されるとみている。
このように、米中対立の長期化が前提となる状況下で、米国企業はどのように対中ビジネスに向き合っているのだろうか。8月末に発表された、米中ビジネス評議会による在中米国企業へのアンケートによると、「米中対立による事業への影響がある」との回答は全体の87%と、調査開始以来、最も高い割合となった[4]。具体的な影響として、先端技術に関するデカップリングの動きを受けたサプライチェーンの見直しや、対中投資の遅れ・取消、中国規制当局による監視強化などが挙げられた。一方、こうした課題に直面する中でも、2022年の収益について、63%の在中米国企業が2021年よりも収益が拡大する見込みと回答した(図表1)。また、今後5年の対中ビジネスの見通しについて、悲観的な見方が増えているものの、約半数は依然として楽観視している(図表2)。半導体など先端技術に関わる分野ではビジネスに悪影響が出ているが、それ以外の分野では自動車を中心に足元で対中投資に積極的な企業もみられ、収益を高めている模様だ。
当アンケートを実施した米中ビジネス評議会のクレイグ・アレン会長はこの11月、3年ぶりに中国を訪問し、上海で開催されていた中国国際輸入博覧会に参加、中国政府関係者とも会談を行っている。ビジネス界でも対面交流が徐々に再開されたことは評価できる。逆風の中でも冷静に対中ビジネスに向き合っている米国企業の動きは引き続き見逃せない。
(図表1)在中米国企業の前年対比の収益見込み(アンケート調査)
(出所)US-China Business Council, “USCBC 2022 Member Survey,” August 29. 2022.
(図表2)在中米国企業の今後5年の対中ビジネス見通し(アンケート調査)
(出所)US-China Business Council, “USCBC 2022 Member Survey,” August 29. 2022.
玉井芳野(2022年11月)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
[1] 中国側は、バイデン氏が「台湾政策に変更はない」「台湾独立を支持しない」としつつも、中国が台湾を武力攻撃した場合には米軍が台湾を防衛すると繰り返し発言していることを「言行不一致」とみなしている。
[2] 「习近平:高举中国特色社会主义伟大旗帜 为全面建设社会主义现代化国家而团结奋斗——在中国共产党第二十次全国代表大会上的报告」新華社、2022年10月25日。
[3] The White House, “National Security Strategy,” October 2022.
[4] US-China Business Council, “USCBC 2022 Member Survey,” August 29. 2022. 調査期間は2022年6月中、対象企業は会員企業117社。