はじめて訪中したのは2001年の春、未だ大学院生であった時に、現在勤務している研究所のアルバイトとしてであった。昼食時には現地調査会社の方々がお皿をもって長い列を作っていたのが思い出される。その後05年までに市場調査のため何回か訪中したが、しばらくは中国の調査から離れており、次は17年から20年にかけての毎年であった。前半は長年中国を担当してきた上司に付き添って、後半は中国担当者の上職として、いわばどちらも専門家に「おんぶにだっこ」での訪中であった。
このような私の目からみても05年から17年にかけての中国の変化には驚くべきものがあり、昔の団地風の建物や空地は近代的な高層ビルに変化し、道路は整備され、そしてレストランの店構えや女性の服装は華やかで多様になった。訪問する企業もガランとした大きな部屋からロボットが掃除する近代的なデザインのオフィスへと変化した。当然のことながら日本語も英語も通じない中、魚の水槽は置いてあるがキャッシュが使えるレジのほとんど存在しない巨大なスーパーで何とか買物をし、多様な商品が取り揃えてあるキャッシュレス自販機の前や高速鉄道(新幹線)の駅でまごまごしていると、まるで自分が地方から都会に出てきたばかりの学生のような気分になった。
このように自身の経験の中で大きく変貌した中国ではあるが、定量的な市場調査という観点からすると、日本に一日の長がある部分もある。例えば日本では政府や公的機関が様々な社会・経済指標などを時系列で整備しており、誰でも手軽に入手することが出来る。また多くの伝統的な調査会社はサンプリングデータを確率論的に適正に取得・分析することに手慣れており、かつ様々な商材について時系列のオムニバス調査データや予測値なども揃えている。
地味な話に聞こえるかもしれないが、例えば中国のある地域で特定商品の需要が今後どの程度見込めるのかを推計するためや、あるプロモーションの効果を適正に評価するためには、ターゲットとなる人口のボリュームや今後の増減が必要不可欠な情報となる。たとえ変化が激しい地域だとしても、適切な「ものさし」がなければ、その変化の勢いや方向性を正確に捉えることが出来ない。是非中国には正確で一貫した様々な社会・経済指標の整備と公開に努めてほしいと感じている。
一方でスマートシティーや自動運転車など、世界最先端の技術やビジネスモデルが今後も中国で先行して開発され普及していくことは明白である。最近では日本のクライアントから、このような動向を把握することで自社の技術開発の方向性を検討するためや、中国企業の商品への自社商品(部素材など)の適用可能性を探索するための、産業動向・事業環境調査の依頼が大幅に増えている。
自分自身もリサーチャーとしてこのような勢いの中から「元気」をもらえるように、今後もなるべく中国現地との仕事に携われればと感じている。
現代文化研究所 黒岩 祥太 (2022年2月)
* 現代文化研究所(本社:東京都千代田区、社長:鈴木知)は、トヨタ自動車株式会社が全額出資の自動車・モビリティ専門調査・研究法人。1968年に設立し、特に90年代前半よりトヨタグループ各社の中国事業立案・マーケティング活動支援に参画。