『トラックの商用化が先行する自動運転:中国乗用車向け自動運転スタートアップ企業の動き』

近年、ロボタクシーサービスの提供を目指す中国乗用車向け自動運転スタートアップ企業が日本でも注目を集めている。その代表企業としては、トヨタが投資したPony.ai、日産が投資したWeride.ai、ホンダと提携したAutoXが挙げられる。一方で、トラックの自動運転は乗用車ほどには話題になっていないが、商用化に向けて着実に進めており、乗用車よりも先行していることが業界の共通認識となっている。本文はその背景と、背景に基づきトラック分野へ進出した中国乗用車向け自動運転スタートアップ企業の動きを紹介し、トラック分野への進出における各社の共通課題を分析した上、結びとして各社の今後の生き残りの鍵を提示したいと考える。

1)乗用車よりトラックの商用化が先行する自動運転の背景

①市場ニーズの高さ:ECの普及に伴い、トラックによる輸送量が毎年増加しており、新型コロナの影響で物流の自動化が更に求められてきた。一方、トラック運転手の労働環境が過酷なため、平均年齢の高さ、人件費の上昇、ドライバー不足などの課題が深刻になり、自動運転の導入による解決への期待が寄せられている。

②技術開発難易度:一般道路での走行がメインとなる乗用車向けは運転状況が複雑で、コーナーケース(まれにしか起こらないケース)の発見・処理するには時間がかかってしまう一方、高速道路や港などのクローズドエリアでの走行がメインとなっているトラックは運転状況が簡単で、技術開発の難易度も相対的に低いため、早期的な商用化の実現が可能になる。

2)中国乗用車向け自動運転スタートアップ企業のトラック分野への進出

①Pony.ai社:同社は20年にトラック向け自動運転の事業部を設立し、21年3月に、トラック向け自動運転事業の「PonyTron」を発表した。広東省や北京市でトラックの自動運転実証実験用のナンバープレートも獲得し、トラック向け自動運転の開発と実証実験を加速している。

②Weride.ai社:同社は21年7月に、トラック向け自動運転会社の「牧月科技」を買収し、自社開発より早い方法でトラック分野へ参入しようとしている。牧月科技は深セン、厦門、泉州で公道実証実験と試験運用を実現し、トラック向け自動運転における実力者である。

③AutoX社:同社はPony.ai社とWeride.ai.社より早期にトラック分野での戦略を立てた。19年11月にトラックメーカーの東風汽車と共同開発した自動運転のEVトラックを発表した後、20年1月にEVトラックによるモビリティサービス運営会社の「地上鉄」と提携し、トラック向け自動運転の商用化を推進している。

3)トラック分野への進出に伴う各社の共通課題

①戦略的課題:トラック自動運転はビジネスモデルでの差別化が難しく、いかに他社より安く、早く、高性能の自動運転機能を実現できるかの開発競争である。しかし、会社設立時からトラック向け自動運転に注力している一番手であるTuSimple社などより参入が遅れたため、自社開発ではキャッチアップに限界がある。

また、戦略パートナーとなり得るトラックメーカーの選択肢も限られている。

②技術的課題:乗用車向け自動運転技術をトラック分野へ転用する際に、トラックの特性に合わせて開発する必要がある。例えばトラックは重量が大きく、制動距離が長いため、乗用車より広範囲に検知しなければならず、積荷の重さが変動するため、アルゴリズムも適合させなければならない。

4)結び

中国乗用車向け自動運転スタートアップ企業の各社は、難しい技術が求められる乗用車分野で蓄積した知見をトラック分野に転用し、先に参入した競合企業より優位性を築けるか、また、それを素早く推進するために提携パートナーの協力を獲得していけるかが、今後トラック分野で生き残る鍵だと考える。

 

なお、変化が著しい中国企業(特にスタートアップ企業)との提携を検討する時に、候補企業をしっかり評価することが成功への第一歩である。弊社では、中国市場に精通した研究員が独自ネットワークを活用し、現地の産業/企業の調査・分析サービスを提供している。必要に応じご相談をいただければ幸いである。

(メニュー:http://www.gendai.co.jp/wp-content/uploads/2020/10/09.pdf

現代文化研究所 主事研究員 王 体鳴(2021年12月)

* 現代文化研究所(本社:東京都千代田区、社長:鈴木知)は、トヨタ自動車株式会社が全額出資の自動車・モビリティ専門調査・研究法人。1968年に設立し、特に90年代前半よりトヨタグループ各社の中国事業立案・マーケティング活動支援に参画。  http://www.gendai.co.jp/