●雨水-新街口の中国楽器屋(2017年2月18日 曇り 中度汚染 最高気温 8℃、最低気温 -1度)
雨水は、雪ではなく雨が降るようになり、氷が溶けて水になるという時節を表しています。しかし、北京では、今年に入ってからほとんど雨が降らず、風が吹けば晴天、吹かなければスモッグという日々が続いています。
さて、今回は中国伝統楽器の専門店を紹介します。
北京の旧城内(第二環状線の内側)の北西方、地下鉄4号線平安里駅の北側に新街口というエリアがあります。この新街口南大街という大通りの両サイド、400mほどの区間に楽器屋が軒を連ねているのです。ここでは楽器ならばなんでも売っています。例えば、中国伝統楽器をはじめ、ギター、ドラム、バイオリン、ピアノ等々。それぞれの楽器専門店は、小ぶりの店舗ながら、看板や店構えがとても個性的で、店内に入らずとも歩きながら外から見ているだけで楽しくなります。
今回紹介します中国伝統楽器専門店は楽器通りの南側にあり、30年の歴史があるとのことで、この通りのなかでは最も古い店の一つです。
店に入ると所狭しと中国楽器が並んでいます。棚に掛けられているのが“二胡(er hu)”です。“二胡”は哀愁の帯びた音色から日本でも知っている方が多いと思います。
この店では、一般的な“二胡”のほかに、いろいろな種類の“二胡”を揃えています。
まず、“京胡(jing hu)”。名の通り、京劇の伴奏用として高音が出るように作られたもので、“二胡”の胴体が木材であるに対して、“京胡”の胴体は竹で出来ています。
次に、“板胡(ban hu)”。陝西省等の地方劇の伴奏に使われるものです。“二胡”の琴皮はニシキヘビの皮を張りますが、“板胡” の琴皮は名のとおり椰子の木材を使用しています。
その他に、中音を出すための“中胡(zhong hu)” 、高音を出すための“高胡(gao hu)”等があります。
【店内の様々な二胡。上段が“二胡”。下段右半分の黒く小さいものが“京胡”。右奥上段に“板胡”。写真が小さく見づらくて恐縮です。】
写真の左側が“中国琵琶(pi pa)”、右側が“中阮(zhong ruan)”です。“琵琶”は日本にもありますので、分かりやすいと思いますが、“中阮”は初めてその名を聞く方も多いと思います。“琵琶”が西域から伝わったものである一方、“中阮”は中国原産のものだそうです。形も“琵琶”が上に行くほど細くなり、首がきりりと引き締まった印象を与えるのに比べ、“中阮”は丸く寸胴です。
オーナーの胡さんが“中阮”を弾いているところです。胡さんはとても人が良く、頼むといろいろな楽器を弾いてくれます。
右の楽器が“三弦(san xian)”。先ほど紹介しました二胡は弦が二本であるのに対して、“三弦”は名のとおり弦が三本です。この“三弦”は中国北方と南方で形が違うらしく、北方のものは120 cm程度と大きいです。日本の三味線の元祖とのことです。
左の楽器は“柳琴(liu qin)”と言い、中国琵琶の一種です。柳の葉の形に似ていることからこの名が付けられ、材質も柳の木を使っているそうです。
二胡を弾いている張さん。張さんはオーナー胡さんの二胡の先生ということです。店の中でずっと二胡を弾き、お客が来れば二胡談議に花を咲かせます。定年後の人生を優雅に送っているようです。
張さんの左側にあるのが“古筝(gu zheng)”。日本の琴に似ています。清代は弦が15~16本であったものが、現在では24~26本まで増えているそうです。
張さんの真後ろに掛かっているのが“古琴(gu qin) ”です。こちらは7本と弦の数が固定されており、“古筝”よりもコンパクトです。
この他にも、縦笛、横笛、オカリナ等等、いろいろな楽器が置いてあり、店内では自由に楽器を弾く人もいて、眼と耳で楽しませてくれます。
どこの民族にも、その民族の琴線に触れる音楽というものがあります。今回この店を訪れて、中国楽器の世界に少しばかり足を踏み入れてみますと、中国の人たちにとって、“二胡”の喜怒哀楽のある音色、“琵琶”の西域に思いをはせる奏では、彼らの心の嘆きであり、心の支えではないかと感じました。
北京芸音閣琴行:北京市西城区新街口南大街123号
文・写真=北京事務所 谷崎 秀樹
★過去掲載分:
小寒-中国最初の映画館-2017/1/5