【北京の二十四節気】立春-雍和宮の臘八粥-

2 04 2018

立春-和宮の臘八粥 (201824日 晴れのち曇り 最高気温 2、最低気温 -8

 

ご存知のとおり、日本では12月のことを『師走』といいます。

年が改まってひと月しか経たないときに年末のことを言うのは恐縮ですが、中国はまさに今が『師走』なのです。中国人にとって一年で最大のイベントである春節(旧正月)を控えた旧暦の12月は『臘月(ろうげつ)』と呼ばれます。この間、人々は春節を迎える準備にいそしみ、帰省の切符を買うために奔走するなど、日本人以上に胸を高ぶらせ、落ち着かない日々を過ごします。

そんな臘月のなかでも8日は特別の日です。この日、中国では『臘八粥(ろうはちかゆ)』を食べる習わしがあります。

 

【雍和宮 永佑殿にて

 

旧暦128日に粥を食べる理由を中国の友人に聞いても、ほとんど誰も知りません。首をかしげて、「皆が食べているから」、「親から続く伝統だから」といった答えが返ってくるのが関の山です。

これでは読者の皆さんにご納得いただけませんので、『臘八粥といえばこの寺』と言われるほど有名で、今回の主役である雍和宮(ようわきゅう)で配っていた説明文を借りて紹介します。

お釈迦様は六年間の苦行の後に、解脱できないことを自覚され、河のほとりに出られた。そこでスジャーターという牧羊を営む娘から牛乳を加えた粥を恵まれ、体力を回復された。そして、菩提樹の下で七日七夜座禅し、臘月八日ついに煩悩を断ち、悟りをひらき仏になられた。これにより、一部の宗派では、128日を『仏の成道記念日』として、粥を仏に供え、衆生にも広く施しを行う。」注:日本の仏教宗派では新暦128日を「成道会(じょうどうえ)」とするのが一般的。

 

【開門を待つ人の列】

 

今年の『臘八』は124日でした。この日は最高気温が-4℃と本当に凍てつくような寒さ(ちなみに最低気温は-11℃)でしたが、風がないことが外で並ぶ者にとっては唯一の幸いでした。

和宮の開門は午前9時です。開門の前には大勢の人が待ち、その列は数百メートルに及んでいます。早い人は開門2時間前の7時頃から来ています。地元のテレビ局など複数のメディアも取材に訪れています。待ち切れなくなったおじさんが警備員に喧嘩を売り始めます。辛抱に耐えられず、大声を出したり、体を激しく動かしたりするのは、逃避行動としてよく見られることですが、中国人は特に自己抑制ができない人が多いと思います。お供え用の造花を持っている人が沢山います。その造花を立って売っているおばさんが一人だけいました。

 

開門です! 右側の青い帽子にサングラスが喧嘩を売ったおじさん、左側の手を伸ばしているのが売られた警備員

 

9時の開門と同時に雪崩を打ったように人々が狭い門に殺到します。喧嘩を売ったおじさんもなにか喚(おめ)きながら、人の流れと一緒に門に向かいます。かくいう私も遅く来たうえに列に並ばず写真を撮っていたのですが、自然に押されて中に入りました(わざとではありません。分かってください…)。

中に入って後ろを振り返ると、門が一旦閉ざされました。多くの人間が一度に入る危険を防ぐためと思います。

チケット売り場に並んで拝観料25元(約420円)を支払い、次にボディチェックと荷物検査に並んで、やっと境内に入って長い参道を過ぎると、またまた人の列ができています。これが粥を貰うための最後の列です。この列は遅々としか進みませんが、待つ間に僧侶がプラスチックの小さな椀とスプーンを一人一つずつ配ってくれます。基本はこの小さな椀に粥をいただくのですが、自分で持参したパックや水筒に入れてもらう人もいました。

 

【粥を施す僧侶】

 

和宮の粥のなかには、コメやアワなど米類8種類、アズキやインゲンマメなど豆類8種類、竜眼、ナツメ、クルミなど全部で26種類もの具材が入っています。一般家庭では、このような手の込んだことが出来ませんので、米や豆などあるもので作ったり、十数種類が入った専用の小袋をスーパーで買ってきて炊いたりするそうです。

 

【雍和宮の臘八

 

僧侶が二人一組になって、銀色の大きな桶から粥をすくって順番に配ります。温かい粥は、並んで冷え切った体に浸み込んでいきます。コメやマメなど沢山の種類が入っているためでしょうか、日本人がイメージする白い粥とは違って、色は茶色がかり、味は甘みがあり、クルミなど歯ごたえもあって、どちらかといえばお汁粉を薄くしたような感じです。

 

【あたり一面線香が立ち込めています】

 

粥を食べ終わると人々は参拝を始めます。この寺では長い線香を無料で配っていますので、だれもが線香に火をつけて、長方形の大きな香炉にどんどん投げ込んでいます。中国の人たちが祈りを捧げるときは、三跪九叩(さんききゅうこう/ひざまずいて三拝して立つ、これを三回繰り返すこと)を行います。そのため、中国の寺院などにはよくありますが、参拝者がひざまずくための台が香炉の前に置かれています。この寺では、その台が細長い板を組んで作られていて、多くの人が一度に参拝できるようになっています。

 

【線香の白い煙のなか、ひざまずく人たち】

 

和宮はチベット仏教の代表的な寺院です。この地は、清朝第四代皇帝である雍正帝が親王の時代に住んだところで、彼の息子で第五代皇帝である乾隆帝が生まれた場所でもあります。また、雍正帝が44歳(1722年)で帝位に就いた後には行在所となり、亡くなった際(1735年)には棺が安置されました。そのため、黄金色の瑠璃瓦と紅い高壁という皇帝が住む紫禁城と同じ最高の格式を持ち、乾隆9年(1744年)、正式にチベット仏教の寺院となりました。

 

【高さ26メートルの大きな弥勒菩薩が収められている萬福閣】

 

チベット仏教はチベット人ばかりでなく、元朝を樹てたモンゴル族、清朝を樹てた満州族といった中国を征服した少数民族にも信仰されました。3,000メートル級の高地が延々と続くチベット盆地、その北方にあるモンゴル大草原、東隣は満州族の故郷である東北地方、まさに中国平原を取り囲む巨大な環(わ)に住む人たちがチベット仏教を信仰したのです。彼らにとって、古代から高い文化と圧倒的な経済力を持つ中国に対抗できる唯一の精神的支柱がこの教えでありました。そして、チベット仏教には、インド密教の伝統を引き継ぎ、呪術や性ヨーガといった一般人には触れることが難しい秘められた所もあり、それが一層信者を魅了していったのです。

 

【少女の祈り】

 

そのようなことを知ってか知らずか、沢山の中国人がこの寺を訪れ、特に多くの若い女性が一心不乱に祈りを捧げていました。





文・写真=北京事務所 谷崎 秀樹

 

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