【天南海北】『中国の「内巻」… 子供の教育』

 まず、謝らなければならないことですが、本寄稿をしばらくサボっていました。仕事が忙しいという言い訳ですが、書くネタがなくなったのが正直なところです。これから頑張って書いていきたいと思いますが、どうかお付き合いを続けて下さい。
 この数年、「内巻」という言葉が中国の至る所でよく使われています。「激しい競争社会」という意味合いですが、具体的な話しが聞けば聞くほど、熾烈な競争という内実が見えてきます。例えば、ある会社が新商品を市場投入し、しばらく先行者利益を享受していますが、同類商品がすぐ出回り、あっという間に先行者利益がなくなります。さらに同類商品が、改良改善や安い価格攻勢を仕掛け、今度先行者の方がやられ、下手すれば市場から駆除されてしまう可能性すらあります。
 今回の話題は子供の教育です。育児と言えば、洋の東西を問わず、世界中の「親心」が同じでしょう。日本は過去「受験戦争」があったぐらい、厳しい競争社会の体現というふうに言われました。いまの中国はそれ以上激化しています。
「虎媽」
 これは十数年前の言葉で、子供への高い期待と厳しい教育法という意味合いです。アメリカのある大学教員(中国系)の育児法は話題になったのがきっかけです。彼女は2人の子供に対して厳格な教育法を敷いており、夕食後の勉強には、水を飲むこともトイレに行くことも許されず、勉強のみで深夜まで続けられます。ちょっとサボったら、厳しい言葉に浴びられ、テレビや友達との遊びも禁じられます。その結果、2人ともめでたく、ハーバード大学とエール大学に合格したことが何よりの「説得材料」となり、「虎媽」、つまり「育児は虎の生きる世界の如く」という言葉が一躍有名になりました。
 お気づきのとおり、このような現象が当然ながら長続きをしませんでした。多くの「虎媽」の子供たちが精神的に追い込まれ、自信喪失やうつになるケースが続出しました。
「鶏娃」
 鶏の血を子供に注入する、「鶏血療法」とも言われています。これも子供に良い成績を取らせるために、勉強や習い事を絶えず与え、ずっと勉強させ続ける、という意味合いです。
 これも当然ながら長続きをしていなく、多くの反省点が残されました。親の気持ちは分かりますが、子供の適性を見ずに、多くの勉強を無理やり与えることが、逆効果しかなりません。一時期、「奥数」という数学のオリンピック(中学生向けの数学コンテスト:1950年代から、旧ソ連や東欧が立ち上げた)の学習塾が流行りで、多くの子供が親の期待により入れられた現象です。この「最難関」の学習塾は確かに数学に濃厚な興味を持っている子供にとって良いのかもしれませんが、全ての子供に適している訳でありません。多くの子供が難解の数学問題を解くのに明け暮れて、精神的な疲弊に陥れました。
 これらの現象は、あるきっかけで出現し、また多くの反省をもたらし、考え直していくという共通パターンです。その背後の要因はやはり「子供に良い大学に入れさせた」という親心ではないかと思います。
 では、中国の大学事情はどんなのか。下表はその一端を示したいと思います。

 大学総数(*1)「211大学」(*2)「985大学」(*3)
中国1265校(2019年現在)上位112校左記「211大学」から さらに上位39校
日本792校(2022年現在)  

*1:四年制大学(学士課程)
*2:211大学の正式名称は211工程重点大学で、「21世紀に向けて重点的に資源を投資する対象と  して選ばれた100大学」、これが省略されて211大学と呼ばれています。厳密には211大学として選ばれた大学は112校ありますが、全ての大学が211大学と呼ばれます。
*3:985大学は、1998年5月に定められた大学群であることから985大学や985工程と呼ばれ、前記211大学の中でも最重要拠点として選ばれた39大学のことを指します。
 この表から分かるように、中国の大学数が日本の2倍弱です。一方、受験生数は近年、1,300百万人超で、ざっと日本(2023年、62万人強)の20倍以上です。そこで、さらに上位の「211」や「985」を目指すとなれば、ほぼ100倍の倍率になります。
 ここまでとなれば、これからの子供に対して、本当にお気の毒な気持ちになります。そうした意味から、結婚したくない、または子供を生みたくない若い世代が増えています。この話題を次回に書きたいと思います。

中国の超名門校「清華大学」キャンパス(2023年8月、筆者撮影)

雷 海涛(2025年3月)