【北京の二十四節気】大寒-聚宝源(羊肉シャブシャブ)-

1 20 2017

●大寒-聚宝源(羊肉シャブシャブ)(2017年1月20日 晴れ時々曇り 最高気温 1℃、最低気温 -8度)

大寒は、一年で最も寒い時季と言われています。しかし、北京の人たちは一様に、今年は寒くないと言います。TVでも、氷の硬度が弱いために、指定された場所以外では、スケートをしないように呼びかけています。その原因は今年PM2.5をはじめとする空気汚染の襲来が厳しかったためという人が多く、私もそんな気がして仕方有りません。



さて、そんなに寒くない大寒ですが、今回は、是非皆さんに紹介したいと思っておりました“涮羊肉(shuan yang rou)”を取り上げます。この“涮羊肉”、簡単に言えば、“羊肉のシャブシャブ”で、とても美味しいです。この羊肉シャブシャブに使う独特の形をした銅の鍋は、下で木炭を燃やし、ぶっとい煙突が真ん中に堂々と座り、鍋のふちが円形状に小さい手を伸ばしているのです。素材の銅は熱の伝導がよいために、短時間にお湯を沸騰させます。一方、ガスも煙突を通じて排出されますので、一つの鍋には、発熱、伝導、過熱、排気、更には、木炭を燃やすことによる香りといった機能まであるのです。今は“アルコール燃料のホウロウ製の一人鍋”といった洗練されたものもありますが、やはり、機能美に満ちた独特の形の銅鍋を中心にして、友人たちがワイワイ言いながら、箸をつつく姿を見るにつけ、老北京が思わず叫ぶ「正根儿!(zheng geer/根っからのもの、本当のもの)」という景気のよい声が聞こえてくるようです。

この“涮羊肉”の由来ですが、先ず、北京を含めた華北地域、内蒙古、新疆などで、羊が数多く飼われていることです。国別頭数では、第1位=中国2億215万頭、第2位=オーストラリア7,261万頭、第3位=インド6,300万頭……。中国がダントツです。(出所=“2014年 羊の頭数の多い国”キッズ外務省ホームページより)。また、ラストエンペラー溥儀の弟溥傑に嫁いだ愛新覚羅 浩氏が著わした「食在宮廷」のなかでは、“羊肉涮鍋(yang rou shuan guo)”という名で、満州料理として紹介されています。いろいろな説があるようですが、以前からあった身近にある羊の食べ方を継承して、清朝宮廷のなかで、このような調理方法が確立されたのではないかと思います。そして、“涮羊肉”は、今では中国全土に普及していますが、改革開放前は北京でしか食べることのできない料理でした。この事からも、清朝宮廷との関係を考えることができると思います。



今回紹介しますレストランは、“聚宝源(ju bao yuan)”と言います。私がこれまで食べた“涮羊肉”のなかで、一番美味しいと感じた店です。ここは“牛街”という回教徒が集まる街にあり、回教徒が経営しています。回教徒、つまりはイスラム教ですが、こちらは、中東などの過激派とは違い、穏やかなもので、写真の服務員も回教徒とのことですが、髪も顔も出しています。

羊肉は、日本では、生後12ヶ月未満をラム、それ以上をマトンと言って厳格に分け、値段も違います。しかし、北京では、そのような分け方がありません。この店の回教徒の服務員に、
「これは子羊の肉ですか?」
と聞きますと、
「そうです。」
と答えて、颯爽と厨房に行ってしまいました。
このやり取りを聞いていました一緒に行った中国の方が、
「子羊という定義もなく、証明も有りません。それをどうやって信じるのですか?」
と言うのです。まさにその通り、人の言葉を簡単に信じるのは日本人で、中国人は疑うことが先、100%信じないと言っても過言ではありません。しかし、詐欺には中国人も引っかかるようです。中国人も日本人と同様欲には勝てないみたいです。



そんなやり取りをしていましたら、どんどん料理が出てきます。
まずは、お湯。銅鍋のなかには、出汁を取ったスープではなく、ただのお湯を入れます。お湯を鍋に入れ終わりましたら、生姜、しいたけ、ねぎ、クコの実等を入れます。これがまず北京の伝統的な“涮羊肉”のこだわりです。



次が、たれ。ゴマだれをベースに、にらの花(緑色)、腐乳(赤色)、えび油、ラー油などが入ります。この店のような老舗ならば、このたれは店が作ります。新しい店ですと、それぞれの材料を一ヵ所に置き、客が自分で作るところが多いです。



これは“上脳(shang nao)”です。脳に近い部位のため、こう呼ばれるようになったとのこと。先ほど紹介しました愛新覚羅 浩氏の著書のなかでは、「羊肉は必ず背部の肉、所謂“上脳”を用い……」とあります。
その他に、太ももの筋肉、あばら肉、後ろ脚、前脚等々、今、北京の“涮羊肉”の店では、羊の部位を細かく定め、その部位を一つの宣伝材料として、集客を競い合っています。また、産地にもこだわりがあり、例えば、内蒙古自治区何々旗の羊等々と、これも宣伝材料にしています。結局のところ、日本と違い、ラムとマトンのこだわりは、ほとんど無いようです。羊の肉は、薄く切ってあるからでしょうか、臭味も無く、さっぱりしていてとても美味しいです。

今夜は“シャブシャブ”でいかがでしょうか?


【湯気の向こうの服務員】

聚宝源:北京市西城区牛街西里商業1号楼5-2号

文・写真=北京事務所 谷崎 秀樹