【北京の二十四節気】立冬-事務所近くの不思議な道-

11 07 2018

立冬-事務所近くの不思議な道-(2018117日  曇り  最高気温 12℃、最低気温 2

 

白露、秋分と北京の鉄道博物館を2回にわたって本コラムでご紹介した日中経済協会北京事務所電力室の眞田です。本コラムの主筆、谷崎さんと相談して、二十四節気のうち“立”の字がつく立春、立夏、立秋、立冬の4回は眞田が寄稿させていただくことになりました。引き続きよろしくお願いいたします。

 

さて、今回は日中投資促進機構と日中経済協会の北京事務所が入る長富宮飯店/弁公楼の近くにある“不思議な道”を紹介します。

この道は、“永安里中街”と呼ばれ、事務所の東700mくらいのところにあります。そのあたりの道は基本、東西か南北方向の直線になっているのですが、この永安里中街だけが斜めになっていて、さらに途中でカーブを描いています。

先ずは、永安里中街と長富宮飯店、さらに付近の主要地点として、古觀象臺(古観象台)、セントレジスホテル、日壇をプロットした地図をご覧ください。

 

出所: Google Mapを加工

 

赤色の点線で示したのが永安里中街で、斜めにカーブしたルートとなっているのが判ります。

このエリアの衛星写真を見ても、当然ながら永安里中街のカーブしているルートが確認できます。

 

出所: 百度地図を加工

 

地図、衛星写真の中で、丸囲み数字で示した地点の写真もご覧ください。

先ず、の地点ですが、ここは永安里中街の北の端となります。この写真の手前から左手奥に伸びる道が東西に走る永安里北街で、永安里中街は写真中央の交差点から斜めに右手奥に向かっています。

 

出所: 筆者撮影

 

次の写真は、の永安里中街の中間あたりで、道路が緩やかな右曲がりのカーブを描いているのが判ると思います。

 

出所: 筆者撮影

 

次は、永安里中街の南の端から北向きに撮った写真です。黒い車の先で、道路が左にカーブしているのが判ります。

 

出所: 筆者撮影

 

筆者が北京に赴任して2年、このあたりを通るたびに不思議な道だと思っていたのですが、先日ハタと気が付きました。鉄道博物館(東郊館)に展示してあった“京師街道並環城鐵路圖”を目にした時です。

環城鐵路とは、かつて北京の城壁の外側に敷かれていた鉄道路線です。弊稿「中国鉄道博物館(その壱)」で紹介した京奉鐵路と、西直門站から北に向かい、八達嶺を越えて張家口に至る京張鐵路を繋ぐ目的で1916年に開通した鉄道です。その路線は、京奉鐵路の東便門站から分岐して城壁の外側に沿って北上し,

朝陽門站、東直門站を経て、西に転じて安定門站、徳勝門站を経て西直門站の北側で京張鐵路に合流するルートでした。これは、現在の東二環路と北二環路というか、地下鉄2号線の東側と北側のルートにあたります。

 

出所: 中国鉄道博物館(東郊館)展示物を撮影した写真を加工

 

“京師街道並環城鐵路圖”をよく見ると、城壁の東、地図では右側にループ状の鉄道路線が描かれています。赤い楕円で囲んだ部分です。この部分には、“京奉鐵路米倉岔道”と記されています。米倉岔道とは、米穀倉庫支線(米倉支線)といった意味だと思われます。下の写真は、米倉支線部の拡大図です。

 

出所: 中国鉄道博物館(東郊館)展示物を撮影した写真を加工

 

この支線部分の跡があの不思議な永安里中街なのではないかと思い至った訳です。しかしながら、“京師街道並環城鐵路圖”に描かれた支線の線形が永安里中街のカーブと一致しません。

そこで20世紀初めころの更に詳細な地図を探してみたところ、1900年から翌年にかけて当時八カ国連合軍の一員として北京に進駐していたドイツ軍が作成した地図が見つかりました。1枚目の地図と同じエリアを切り出したものが次の図です。

 

出所:アメリカ議会図書館公開Web掲載の地図を加工

https://www.loc.gov/resource/g7824b.ct001942/?r=0.38,1.027,0.298,0.22,0

 

この時代、環城鐵路はまだありませんでしたが、米倉支線は既に敷設されており、地図にはっきりと書き込まれています。

大きさを合わせ、現在も残る古観象台、日壇および南側の城壁を目印にして現在の地図と重ねあわせたところ、赤色の点線で示す永安里中街のルートが見事ぴったりこの線路と一致しました。

また、このドイツ軍の地図には、主要な建物、施設の名前がドイツ語で印刷されるとともに、手書きの漢字名も付されています。セントレジスホテルの赤丸の上の茶色の長方形のエリアは、ドイツ語で“Nothstand Kornhaus(穀物備蓄倉庫)”、漢字では“儲濟倉”と記されています。“儲濟倉”とは、清代に京通十三倉と呼ばれた食糧倉庫の一つの名称です。すなわち現在のセントレジスホテルの北側、外交公館が立ち並ぶ一角に清朝の穀物倉庫があったことを示しています。これにより、この支線が“米倉岔道”と呼ばれたものと判ります。

今回のコラムは、“事務所近くの不思議な道”の謎解きなので、『永安里中街は鉄道の跡』との結論でおしまいとなるのですが、これでは物足りないでしょうから、“環城鐵路”にまつわる話を続けます。

かつての北京の中心部を囲む城壁、門は大部分が撤去されていますが、残された数少ないものの一つが東南角樓です。現在の北京駅の南東に位置し、同駅を発着する列車の絶好の撮影ポイントとしても知られる場所ですが、ここに環城鐵路の遺構があります。現在、東南角樓の入場券売り場と入口は、下の写真のように城壁に対して斜めに穿たれたトンネルになっています。門が無く無防備、しかも斜めのトンネルは城壁に不似合いの不思議な姿です。

 

出所: 筆者撮影

 

実はこのトンネルは、京奉鐵路から分岐した環城鐵路を通すために開けられたものなのです。東南角樓の南側、東便門站の古い写真を見ると、この斜めのトンネルとその中に線路が敷かれていることが判ります。次の比較写真をご覧ください。

 

出所: 上の古い写真は、東南角樓内に展示されていた写真を撮影したもの。下は同様のアングルから筆者撮影。

 

また、ドイツ軍の地図では穀物倉庫までであった米倉支線が“京師街道並環城鐵路圖”を見ると環城鐵路に接続されていることが判ります。支線を環城鐵路に接続、それも急カーブを経て南向きに合流させた理由ですが、これはあくまでも筆者の推測なのですが、列車の方向転換用のループ線を形成するためではないかと考えています。

終着駅での折り返し運転は、現在の電車であれば運転手が最後尾だった車両の運転台に乗り込んで反対向きに出発するだけなのですが、かつての蒸気機関車が牽引する列車の場合は面倒でした。終着駅に着いたら先頭の機関車を切り離し、列車の反対側に新たな進行方向を向いた機関車を連結することが必要でした。このために、終着駅には、蒸気機関車の向きを変える転車台(ターンテーブル)が設置されていました。

さらに、「中国鉄道博物館(その貳)」で紹介した北京と釜山を結んでいた“大陸”や旧満鉄の“あじあ”のような最後尾に展望車が連結された列車では、編成全部を反対向きにする必要がありました。当時の北京駅(正陽門東站)は上野駅の地平ホームのように行き止まりの駅だったので、東側に米倉支線を利用したループ線を設けて列車の方向転換を行っていたのではないかと推測しています。

東南角樓そばの斜めトンネルや永安里中街のルートに敷かれていた線路の上を“大陸”の編成が急カーブに車輪を軋ませながら走っていたのでは、と想像するのも楽しいものです。

 

今回はこれまでといたしますが、最後に北京の北側の門であった徳勝門の環城鐵路の駅があった当時と現在を対比した写真を掲載します。

 

出所: 「老北京德胜门站」http://www.sohu.com/a/145089317_115482 および同一アングルから筆者撮影

 

文・写真=日中経済協会北京事務所電力室 眞田 晃



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★本コラムについてはこちらから→【新コラム・北京の二十四節気】-空竹-

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白露-中国鉄道博物館(その壱)-2018/9/8
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2017年掲載分
2016年掲載分



 


 


 


 

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