【北京の二十四節気】大暑-北京劇装廠-

7 23 2018

大暑-北京劇装廠(2018723日 曇り 最高気温 32、最低気温 25

北京の前門は、昔からにぎわいが絶えません。

清朝から民国の時代、この狭い地域には、いろいろな瞳の色をした人びとがひしめき合い、様々な品物を商う店の丁稚たちが大きな声で客を呼び、多彩な料理を供する酒家からは酔客の声が琵琶の音に交じって芳しい香りとともに外まで流れていました。さらに、五大楼(ごだいぎろう)といわれた京劇の舞台が5ヵ所有り、連日多くの観客を集めていました。

この繁華街から珠市口の大通りを一歩渡った西半壁街と名の付く胡同には、前門の五大楼に京劇の衣装や道具類を提供する工場(こうば)が軒を連ねていました。

 

北京劇装廠の入り口

 

新中国になって数年後の1957年、これらの工場(こうば)のうち17社が合併し、公私合営の北京刺繍劇装廠が組織されました。これが今回紹介します北京劇装廠の誕生です。

 

【手前が紫吉服竜袍、奥が皇帝吉服竜袍】

 

北京劇装廠の入り口は博物館になっていて、京劇や皇帝の衣装などの自社製品を展示しています。

写真の紫吉服竜袍(むらさききちふくりゅうほう)は、皇帝が親王に下賜した礼服です。清の時代、親王はこの竜袍を着て、社稷の大典や朝賀の慶典などの重要行事に出席しました。

奥は皇帝吉服竜袍(こうていきちふくりゅうほう)で、字の通り、皇帝の礼服です。皇帝の象徴である黄色地に竜の刺繍が施され、すそには連綿不断の吉祥の意味を込めた海水が江崖に打ち寄せる模様があしらわれています。

 

【手前が関羽、奥が福字のおろちという京劇の衣装

 

日本でも有名な三国志の関羽は中国人が一番好きな歴史上の人物です。そのため、関羽を題材にした京劇は多く、写真はその関羽の京劇『古城会』の衣装の複製品です。奥は、京劇のなかで浄という男性の役のうち、黒いかしらと呼ばれる演者が着る福字におろちをあしらった衣装です。ちなみに、皇帝が着る竜袍の竜は5本指で、おろちは竜ではないので4本指なのだそうです。

 

【工場のなかの生地の倉庫】

 

博物館の奥は、制作工場になっていて、通常は外部の立ち入りを禁止しています。しかし、今回は80元(約1,360円)の見学料を払って中に入れてもらいました(―ポケットマネーです……)。

最初に案内されたのは、生地が沢山積まれている倉庫のようなところです。34名の従業員がいましたが、カメラを構えると慌てて立ち去ろうとしたため、こちらも慌ててシャッターを押しました。

 

【裁断の主任さん】

 

こちらのおじさんは30年以上裁断を専門に従事してきた方です。先ほどの失敗に懲りて、逃げ出す前に、機先を制して「写真を撮らせてください」と頼みました。ついでに、「笑って、笑って」といいますと、人の良い方なのでしょう、こちらのいうことを聞いて、引きつった笑顔を見せてくれました。

 

【縫製の主任さん】

 

こちらは縫製部門の偉いおばさんです。先ほどの裁断のおじさんとのやりとりを聞いていたのでしょう、彼女は写真を撮られても堂々としています。さすが女性の主任さん、肝が据わっています。おばさんが手にしているのは、京劇の衣装で、牡丹や蝶の模様はミシン縫い、その周りは金糸で縁取りされています。

「いくらですか?」と安ければ買ってもいいかなと気楽に聞いたところ、

「生地はシルクですから、数千元(10万円前後)はします」といわれ、思わず手にした生地を離して後ずさりしてしまいました。

 

【若い従業員】

 

こちらの従業員はある程度できた製品にアイロンを当てたり、小さな生地を縫い合わせたりしています。真剣な姿を撮っていましたら、彼女は気付いて、今度は引きつっていない自然な笑顔を見せてくれました。

先ほどの肝の据わった主任おばさんに聞くと、彼女らはみな北京以外の地方から来ているとのことです。北京の若者は縫製のような地味で給与が低い仕事には就きたがらないそうです。

 

【ミシンをかける従業員】

 

別の部屋ではミシンをかけています。かけているのは4人で、そのうちの2人が上の写真の方です。ミシンは嬉しいことに日本製で、一人は耳栓をして、奥の一人は風邪を引いたといって、かた鼻にティッシュを詰めています。若い女性の鼻ティッシュを撮っては失礼と思い、別のミシンの女性を中心に写真を撮りましたが、帰りがけふと気付くと鼻ティッシュは彼女の顔から無くなっていました。

 

【案内してくれた張さん、後ろがおんなおろちという京劇の女性役の衣装】

 

今回は、写真の張さんに案内していただきました。80元が効いたのか、とても親切に説明してもらいました。彼女の後ろにあるのは、おんなおろちという京劇の女性役の衣装です。この衣装は梅蘭芳という中国で有名な女形が創設した流派が使ったものの複製品です。また、写真の左にある鳳冠は京劇のなかで皇后など高貴な方が被るもので、翠鳥の羽という大変に貴重な素材を使っているとのことです。

中国の縫製業は内陸地域へと移転を重ね、今では中国ではなく、ベトナムやカンボジアなど東南アジアに主力が移りつつあります。

西半壁街に沢山あった工場(こうば)もこの1だけになりました。張さんの話では、彼らは国有企業であるものの市場原理が導入され、同業他社の参入もあり、苦戦を強いられているとのことです。

それでも彼らは、北京にしがみつき、京劇にしがみついて生きています。20086月には国の無形文化遺産に認定されるなど高い評価を得ています。逆境のなかでも、彼ら彼女らの素直な笑い顔が絶えないことを願うばかりです。



文・写真=北京事務所 谷崎 秀樹

 

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★本コラムについてはこちらから→【新コラム・北京の二十四節気】-空竹-

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