【北京の二十四節気】立夏-中国最初の女性書法博士-

5 05 2018

立夏-中国最初の女性書法博士(201855日 曇り 最高気温 25、最低気温 13

ひょんなことから書の先生を訪ねました。

訪ねたのは、表題のとおり、中国最初の女性書法博士で、お名前は解小青さんといいます。現在、彼女は首都師範大学書法文化研究院の教授として教鞭を取られているほかに、北京語言文化建設促進会の理事など沢山の肩書きを持っておられます。

【解小青博士がいる研究棟】

 

大学の先生と聞き、どんな凄い人が出てくるかと内心怖気づいていましたが、研究室で出迎えてくれた彼女は笑顔が素敵なとても魅力的な方でした。

彼女をよく知る人に聞くと、解小青博士は正直で真っ直ぐな性格で、仕事には厳格に臨むが、時折子供っぽさが垣間見えるところが人を惹き付けるそうです。そんな彼女は強運の持ち主です。

ちなみに、書は中国発祥のため、日本で一般的な書道とはいわず、中国では書法といいます。

 

【解さんの筆】

 

なぜ彼女が強運の持ち主かということをご理解いただくために、先ず、三人の男性を紹介します。

第一の男性は、彼女の御父上です。彼女の御父上は書法愛好家で、彼女が五、六歳のときから、御父上の指導のもと習字を始めました。御父上の手をなぞりながら毎日十個の漢字を十回書いたそうです。この幼い日々の訓練が一生の宝物になったと彼女自身が振り返っています。

 

【解教授の研究室】

 

第二の男性は、姚奠中先生です。彼女が七、八歳のとき、御父上に連れられて地元で開かれた書法展覧会を見にいきました。その時、第二の男性となる姚先生の目に留まり、だっこされて記念写真を撮りました。十年後、成長した彼女は地元の山西大学に入学すると、再び姚先生に出会います。彼女は山西大学で学士・修士あわせて7年間、姚先生に就いて中国古代文学を学び、さらに古文字学にも造詣を深めました。

※姚奠中(よう でん ちゅう/19132013年)=中国で国学大師と呼ばれる書法家、教育者。章太炎氏の門下生としても知られる。

※章太炎(しょう たい えん/18691936年)=中国人ならばだれでも知っている清朝末期から中国民国初期にかけての革命家・思想家、後半生は蘇州で国学の教育に尽力。章太炎氏の門下には姚奠中のほかに魯迅や周作人など。

 

【首都師範大学の正面玄関の建物】

 

第三の男性は欧陽中石先生です。1995年、彼女は首都師範大学の博士課程に進みました。彼女の入学2年前の1993年、中国政府は首都師範大学に対して書法の博士課程の設立を全国で初めて認可しました。まさに強運の持ち主のとおり、彼女は開設されたばかりの博士課程で、欧陽先生の薫陶を受け、1999年に中国最初の女性書法博士の称号を得たのです。

※欧陽中石(おうよう ちゅうせき/1928年生まれ)=著名な書法家、教育家。1981年から首都師範大学(当時の名称は北京師範学院)に配属され、同大学が1993年書法の博士課程の設立を全国で初めて認可されると、その博士課程指導教師となる。現在、首都師範大学教授、博士課程指導教師、中国書法文化研究所所長など多数の肩書きあり。

 

【女子学生たち】

 

首都師範大学は、中国の迎賓館である釣魚台国賓館から玉淵潭にかけて豊かな水辺が広がる緑地帯の北側に位置します。北京大学や清華大学など国家レベルの大学では、全国各地から生徒を募集しますが、北京市に所属する首都師範大学は、地元北京を中心に生徒を募集します。入学生を地元にある程度制限できるところが日本と違うところです。

今でも中国の高校、大学のほとんどが全寮制です。首都師範大学では、大学生は一部屋6名、修士で4名、博士で2名が原則です。こんなタコ部屋のようなところで集団生活している点が、中国の人たちの強さの源泉なのかもしれません。

解博士をはじめ多くの教職員も校内のアパートに住んでいます。校内には、食堂や売店もあり、大学にかかわるほとんどの人たちは、大学の敷地のなかで生活から仕事まで、その全てが完結できるのです。

 

【後ろの建物が学生寮。寮の中に入ってみたいとお願いしましたが、「自分も入ったことがない」と解先生から断られました】

 

現在、解小青教授は修士課程の生徒25名、博士課程の生徒5名を指導し、毎週それぞれ13時間の授業を持っています。合計週2回だけの授業ならば、暇そうに思いますが、10万字以上に及ぶ膨大な博士論文の指導・添削、授業の準備、ご自身の研究、テレビや新聞の取材など、多忙な日々を過ごしておられます。ご自身の研究としては、山西大学で姚奠中先生から学んだ古文字学を発展させて、一つ一つの漢字の生い立ち、および漢字と書法との関連を中心に調べているとのことです。 

 

【解教授と教え子たち、大学の図書館のなかにある書法文化博物館にて】

 

日頃の練習では、楷書、行書、草書を書かれるとのことですが、門外漢の無遠慮で、三つの書体の違いを質問しました。

「楷書は立ち、行書は歩き、草書は走る。立たなければ(楷書)、歩けません(行書)、歩いてはじめて走る(草書)ことができます。一番最初の立つこと(楷書)が基本中の基本と言えます。」

 

【笑顔が素敵な解先生】

 

「私にとって書法とは永遠に追及するものです。第一の筆が良くなくとも、第二の筆の機会があり、第三、第四……と永遠に機会が有る。その一筆一筆は全て違っていて、一つ書くごとに新しい発見が生まれる。書法とは多くのサプライズを自分に与えてくれるのです。」

 

【緑に囲まれた校舎】

 

最後に、ご自身は強運の持ち主と思っておられますかと聞きました。

「父と二人の恩師に巡り合えたことは、自分にとって幸福であり、強運であったと思います。いま振り返ると、人は、自分の才能を信じ、努力を重ね、人に優しくすることで、運を引き付けることができるのではないしょうか。この3名以外にも、多くの人たちとの出会いがあり、とても大切な人がいますが、それはまたの機会にお話しします。」




文・写真=北京事務所 谷崎 秀樹

 

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★本コラムについてはこちらから→【新コラム・北京の二十四節気】-空竹-

★過去掲載分:
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2017年掲載分
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