【北京の二十四節気】小寒-農村のイヌ屋-

1 05 2018

小寒-農村のイヌ屋 201815日 曇りのち晴れ (最高気温 3、最低気温 -7


あけまして、おめでとうございます。 

今年は戌年ですので、北京の郊外に有るとても大きな「ペットショップ」といいますか、『イヌ屋』といったほうがイメージが近い店を紹介します。

 

【ボクの肉球、見て!】

 

兎に角、北京の人たちはペットが大好きです。

街を歩いていると、犬、猫は当然ながら、鳥やはたまたコオロギまでいろいろなものを飼う人たちを見かけます。

しかし、私が最初に中国を訪れた1980年代初頭、北京をはじめほとんどの都市では、犬を見かけることはありませんでした。

「中国の人は、犬なら野良犬でもすべて捕まえて食べてしまうから、どこにもいないんだ……」

と先輩からその理由を教えられ、びっくりしたことを覚えています。

今でも、犬食は中国の一部地域でありますが、富裕層や中産階級が増えた北京では、ほとんど姿を消しました。代わって、ペットとして飼われる犬が増えました。古いデータですが、北京でペットとして登録された犬の数は2005年の45.8万頭から、2009年には95万頭に倍増しています。この増加率に基づけば、今では200万頭は軽く超えるのではないかと思います。ちなみに、日本の登録数は2016年度末が645万頭ですので、人口1億人として100人に6頭の割合となります。北京の場合は人口2,000万人で200万頭とすると、10人に1頭と日本の倍近い割合になります。北京で暮らしていて、それほどの数に上るとは信じられませんが、北京の人たちが犬好きだということは、分っていただけると思います。

 

【ゲージ越しの口づけ】

 

なぜ、北京の人たちが犬好きかと言いますと、一つには歴史的な要因が挙げられます。中国最後の王朝である清1644年-1912年)は、満州人が中国東北部の小さな地方から躍り出て、中国全土を統治しました。彼らは北京を首都として支配階層となったわけですが、268年間に及ぶゆったりした時間のなかで、建国当初の荒々しい気風を忘れ、無為徒食によって犬、猫、鳥などのペットと日々を過ごす者が多くなっていきました。この遺伝子は脈々と受け継がれ、文化大革命などの苦しい時には食べてしまうこともあったでしょうが、100年を経た今日になって、やっと遠慮なくその手を開き、足を伸ばすことができるようになったのです。

別の要因としては、現在、経済が発展し、生活に余裕が出来たとはいえ、中国人にとって人生の目標の一つであるマンションが高値の花となるなど、貧富の格差が拡大するなかで、将来の希望を持てなくなった若者が多くなったことが挙げられます。このような若者を中心として、結婚しないでペットと暮らす、或いは結婚しても子供を生まずにペットと暮らすことを選ぶ人たちが増えています。

 

遠くを見つめるコーギー。周りはまるで廃屋

 

北京16区の一つ通州区の繁華街から2~3㎞南下したところに梨園という村があります。ここに華北地域最大の犬市場があり、盛時は約500軒の犬の販売や養殖を行う店が集中していました。しかし、500社という途方もない数の集中によって騒音や悪臭などの問題が発生し、さらに北京市政府が通州に移転(201735日啓蟄を参照)することも契機となり、昨年、梨園犬市場は区政府から強制的に閉鎖されました。

一人が成功すると雨後の筍のように真似するものが現れ、増え過ぎて問題が大きくなると政府が強制手段に出るという、まさに『The 中国』の見本のようなドタバタ劇が繰り広げられたのです。

これにより、ほとんどの店は廃業に追い込まれ、一部はより郊外に移転しました。今回紹介する店も、梨園犬市場に出店していましたが、通州のなかでも、さらに十数㎞離れた農村に移転しました。

 

【子イヌと遊ぶ従業員

 

我々が訪問した時、携帯ナビだけではこの店に行くことができませんでした。携帯ナビがカバーしないほど辺鄙な農村ということなのか、それともなにかを恐れて住所を公開しないのか、よく分かりませんが、迎えの車が必要なのです。迎えの車は普通の乗用車ですが、窓が黒いシートで隠され、中の様子は見えません。その車の先導を受け、細く曲がりくねったあぜ道を通り、突然飛び出してくる放し飼いのニワトリに急ブレーキを踏みながら10分ほど走って、やっとたどり着いたのが目指す『イヌ屋』です。

 

【案内してくれた若い兄さん。後ろが長屋のような店の建物

 

店の入り口には看板もなく、平屋の長屋のような建物が数棟並んでいます。

社長、といっても外見は農村にいる普通のおじさんに挨拶して、取材の許可を得ましたが、ご当人の撮影は残念ながらNGでした。その代わり、若い兄さんが我々を案内してくれました。彼の話では、ここは、敷地面積が約5,000㎡、数十種類の犬種が100頭ほどいて、繁殖は別の静かな場所で行っている。従業員は約100人、ほとんどが河北省から来た出稼ぎで、同じ敷地内の建物に住んでいるとのことです。

【イヌを買いに来た女性、左は従業員】

 

販促のやり方は今どきの中国風で、店のホームページは作らず、ウィチャット(中国語「微信」)のグループのなかだけで、新しく入荷したイヌや売れたイヌの動画をほぼ毎日発信します。情報発信はこれだけですが、このような大型店が少ないからでしょうか、人気は高く、平日でも数組、週末となると相当数の客が来るとのことです。

イヌの価格は値札があるわけではなく、社長の胸三寸といいましょうか、社長との個別交渉です。部屋毎に担当が決まっている従業員にイヌの値段を聞いても「分からない。それは社長に聞いてくれ」と異口同音の答えが返ってきます。現在の一般的な相場は、血統書ありが2万元(約34万円)前後、無いものが6,000元(約10万円)前後と日本と似たような金額のようです。

案内してもらった兄さんに「売れ残ったイヌはどうするのですか?」と聞いたところ、

「売れ残りません。すべて売れてしまいます!」

と、意気揚々たるものです。「売れ残る」とか「出来ない」という言葉を決して口にしないのが中国人の習性ですから、彼の返事を全て信じることはできませんが、店の景気がよいことだけは感じることができます。

 

【耳を包帯で巻かれた子イヌ】

 

数棟の長屋はイヌ用と従業員用に分かれていて、イヌの部屋は全部で約20室、1室十畳ほどの広さです。全ての部屋はクーラーを効かせて、温度を一定に保っています。耳を立たせる必要のあるものは、包帯でぐるぐる巻きにされています。ほとんどが生後23ヶ月ほどですが、犬種によって性格の違いがはっきり出ています。どちらかといえば、小型犬は活発に動き、大きくなるものはゆったりといいますか、退屈そうに寝そべっています。どのイヌも狭いゲージに閉じ込められて、不安そうな眼をしています。この瞳に吸い寄せられて思わず、「買う!」と言ってしまう人が多いのではないと心配になりました。

 

【つぶらな瞳のマルチーズ】

 

今後、北京における飼い犬の急増は、はぐれ犬や捨て犬の増加、狂犬病など病気の問題、リードを付けない、糞の始末などマナーの問題、或いは日本ではあまり考えられませんが、北京では死体を公園などに勝手に埋めるといった埋葬の問題など、様々な課題が表面化してくると思います。

しかし、ペットは伴侶動物と言われるほど、人の心を癒すものです。是非、中国の人たちには、一人ひとりが自覚を持ち、十分にマナーを守って、犬とともに愛情豊かな生活を送っていただきたいと思います。

 

今年もよろしくお願い申し上げます。

 

【我が家の愛犬モモ】




文・写真=北京事務所 谷崎 秀樹

 

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★本コラムについてはこちらから→【新コラム・北京の二十四節気】-空竹-

★過去掲載分:
2017年掲載分
2016年掲載分


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