【北京の二十四節気】冬至-砂鍋居-

12 22 2017

冬至-砂鍋居  (20171222日 曇り 最高気温 11、最低気温 -6


年の瀬になると、信州の田舎では夜回りがありました。若衆が公民館に泊まりこみ、宵が深まると、一人は懐中電灯を持ち、一人は拍子木を鳴らしながら、村のなかを歩くのです。

「ヒノーヨージン、シャッシャリマーセ」

その独特の言い方は、大きな声ではありませんが、冷たく浮かぶ星に後押しされて、遠くの家のなかまで届くのです。

北京でも、清朝から中華民国までの時代、夜回りが時刻を知らせ、防災をかねた職業としてありました。毎夜2時間おきに、最初の7時台が一更、次が9時台で二更、続いて三更、四更、最後が翌朝3時台で五更と呼ばれ、この5回、夜回りが行われました。

「更」という字は、中国語では「夜の時間」という意味ですが、昔使われた言葉で、今ではほとんど死語になっています。「夜の時間」と字面だけみるとドキリとしてしまいますが、皆さんが想像するような意味ではありませんので、誤解のないようにお願いします。

 

【砂鍋居本店】

 

私の田舎では、夜回りは二人一組ですが、北京は三人一組です。昔は街灯などありませんので、真っ暗な路地のなかを提灯を持つ者が先導し、一人は拍子木を、もう一人は日本と違って銅鑼を持って歩きました。往時、北京の大小さまざまな通りは四合院の高い塀に囲まれていましたので、銅鑼の大きな音でないと、家のなかまで時を知らせることが出来なかったのでしょう。しかし、銅鑼は強く叩けば大きな音がします。そのため、住民の眠りを妨げず、それでいて遠くまで届くように鳴らすのが、彼らの技であり、誇りでもありました。

そんな夜回りの一人が、小遣い稼ぎのために、親王家からくだされた祭祀用の豚肉を煮て売り始めたのが、今回の主役である「砂鍋居(sha guo ju)」の起源なのです。

 

【店のロビーに置かれている大きな土鍋。左側のおばあさん二人は、私が店に入ったとき座っていて、食べ終わって帰る時も、同じ姿で座っていました】

 

清朝乾隆六年(1741年)、この夜回り、自分が仕えていた親王家の脇にテントをたてて、入り口に「和順居」という店の看板を吊るし、直径1.3mの大きな土鍋に、豚肉と野菜を煮て売り始めました。それが瞬く間に、庶民の間で評判となり、ついには時の最高指導者である乾隆帝の耳にまで達したというのですから、熱気のほどがうかがい知れます。

 

【厨房には土鍋が沢山火にかかっています】

 

しかし、くだんの夜回りにとって残念なことは、さんざんに知恵を絞って付けた店名を誰もよんでくれないのです。土鍋(中国語では「砂鍋」という)の食堂ということで、だれからともなく「砂鍋居」と言うようになり、あだ名が店名を食ってしまいました。

 

【酸菜白肉(黒豚)の大鍋(直径25㎝、45人前)、212元(約3,600円)】

 

この店の看板料理は「酸菜白肉(suan cai bai rou)」です。酸菜は白菜の漬物、白肉は豚のばら肉のことです。創業当時の大鍋から今では一人用の小さい土鍋になりましたが、270年間に亘り、延々とこの料理は作られてきたのです。

酸菜は、日本の漬物と同様、中国どこにでもありますが、地方によって作り方に違いがあります。北京では、秋に採れた白菜をきれいに洗い、陰干しして、大きな壷に入れ、湯冷ましした水を注ぎ、石などの重しを置いたら、作業は終了、後は1ヶ月半ほど発酵するのを待つだけです。中国が貧しかったころは、この酸菜が一冬を越すための貴重な栄養源でありました。

 

【内臓を煮た小さな土鍋、38元(約650円)】

 

この店の「酸菜白肉」、土鍋のなかには、酸菜、豚肉、春雨、スープしか入っていませんが、それぞれの口当たりがよく、すべてがあっさりしています。澄んだスープのなかには旨みが溶け込み、ばら肉は煮込んだわりには硬くならず、柔らかい歯ごたえがあり、ほどよい酸っぱさの白菜は細く刻まれて、スープと肉とうまく絡んでいます。大量の油がにじみでた中華料理を食べ慣れた舌には、一口食べると「上品」という言葉が浮かび、二つ口食べると「幸せ」という言葉が出てきます。

 

【満員の店内】

 

老舗の食堂ですから、客はそれほど多くないと思い、ゆっくり昼過ぎに店を訪れたのですが、大変な盛況で、多くの人が順番待ちをしているのです。客も老人ばかりではなく、若い人も結構います。

 

【若い夫婦も来ています】

 

北京は古くからの都ですから、老舗と呼ばれるレストランや、食品、日用品などを商う店が沢山あります。それも高級なところから庶民的なところまで、いろいろな店があり、今でもしっかり営業を続けています。老舗ならではの安定感あるいは安心感が、多くの人の支持を集めているのです。

 

【尼さんも一生懸命食べています】

 

特に、砂鍋居の「酸菜白肉」は、どこにでもある白菜の漬物と豚肉を煮たものですが、簡単であればあるほど、奥が深いのかもしれません。その奥深さは、長い年月のなかで、北京っ子のDNAに染みこみ、次の世代へと伝えられていくのです。

 

【ひとつ、出来上がり!】


文・写真=北京事務所 谷崎 秀樹

 

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