【北京の二十四節気】啓蟄-北京の四合院-

3 06 2019

啓蟄-北京の四合院(201936日 晴れ (最高気温 11、最低気温 -2

 

【胡同と四合院 白米斜街にて】

 

北京の古い街並みといえば、胡同と四合院です。

胡同は「フートン」と発音し、路地のことです。四合院(しごういん)は中国様式の住宅のことで、名前のとおり四つの辺に建物を置き、中央を空間とします。中国の書物によれば三千年以上の歴史が有るそうです。

 

【花梗(かこう)胡同の四合院。両壁の彫刻が目を引く】

 

 

1は四合院を説明するときによく使われるものです。

Aが四合院形式で、この場合、全体の64%が建築面積となり、残り36%が空地となります。

Bがその逆の割り合いです。こじんまりしているところなどは日本の住宅に近いのではないかと思います。

CAと同じ建築面積64%を中央に確保したときのものです。Cの場合、空地が建物の周囲を細長く囲んでおり、バランスの悪いことは一目瞭然です。

この三つの比較によって、Aの四合院形式はたいへんに合理的で素晴らしいものであると中国の人たちは胸を張るのです。

 

【東四四条の四合院。東四や西四、什刹海などではこのような古びた四合院をよく見かける

 

 

2は四合院の基本形を示したものです。

四合院では、北側の南を向いた建物が日当たりが一番よいため主棟とするのが一般的です。中国ではこれを「北に座って南を向く」といいます。そこは祖先を祭祀する神聖な場所でした。しかし、時代とともに、祭祀の場所は客室となり、また主人の部屋へと変化していきます。主棟の両脇は控え室です。そして、東棟、西棟、南棟は家族の部屋として使われました。

各棟の庭側には窓やドアを設け、開放感を出します。一方、逆側にはなにも開けず、レンガ積みの壁だけです(採光のため高い場所に小さな窓を開けることはある)。この壁が路地との塀の役割を果たし、北京独特の胡同の風情を醸し出しています。

 

【大門と影壁 什刹海周辺にて】

 

大門と呼ばれる入り口は、道路や敷地の形などによって変化しますが、東南の角に置くのが一般的です。大門を入ると直ぐに縁起のよい字や花などの彫刻がほどこされた壁が迎えてくれます。これは影壁(「えいへき」或いは「かげかべ」)と呼ばれるもので、装飾であるとともに、外から中が見えないように視線をさえぎる働きもあります。狭く薄暗い入り口を入り、影壁の美しい彫刻を見ながら中に進むと、視界が急に開きます。暗から明、狭から広という変化によって小さな空間(中庭)を大きく感じさせるのです。

さらに外敵からの防御という面でも十分に考慮されています。高い塀で四方を囲み、出入り口は1ヵ所だけというのは、まさに小さな城郭です。

こうして中国の人たちは、三千年の月日をかけて万里の長城を築き、都市を城壁で囲み、四合院を塀で固めながら、自分の家の快適性と防御性を高めていったのです。

 

【四合院の高い塀に囲まれた路地 後海周辺にて】

 

それでは、実際の四合院を見てみましょう。

2016823日処暑』で取り上げた老舎の旧宅はまさに四合院の基本形です。四つの棟がロの字に配置され、北面の主棟は客室(リビングルーム)で、西の控え室は老舎の書斎兼寝室、東の控え室は夫人の寝室、西棟は息女、南棟は子息の部屋、東棟は厨房と食堂でした。中庭には、老舎が妻と一緒に植えた柿の木があります。

 

【老舎旧宅の内部。写真中央が主棟、右が東棟、左が西棟。手前の木がなつめ、奥の2本が柿の木】

 

北京では、ざくろ、なつめ、海棠(かいどう、バラ科の落葉低木)などの中国の人たちにとって縁起の良い木が中庭に植えられました。北京の暑い日差しをやわらげる緑の下で、祖父母を筆頭に第二、第三世代の家族全員がテーブルを囲んで一緒に食事をする。それは中国の人たちにとって大きな幸せの時間でした。ちなみに松だけは墓場の木として忌み嫌われ、住宅で植えることは絶対に無いそうです。

 

 

四合院はロの字の基本形から複雑に発展していきます。

3は基本形に前庭を追加し、前庭と中庭の間に垂花門を置いています。これにより垂花門を境として、中庭側は家族の生活エリアとなり、前庭と南棟は来客用の宿泊場所や従業員の部屋などになりました。

4は、図3にさらに後庭と後棟を追加し、後棟は従業員の部屋や作業場などに当てられました。

 

【故宮全景】

 

四合院は住む人の身分の象徴でもありました。

最上級の四合院は故宮です。なかでも皇帝の生活エリアであった内廷を見ると、皇帝や妃などが住む殿宇はすべて四合院様式であることが分かります。一つ一つの四合院は独立し、それが沢山のジグソーパズルがかみ合うように配置されて巨大な宮殿を形作っています。

 

【醇親王(じゅんしんのう)の旧宅。ラストエンペラー溥儀が生まれた場所。建築面積1,900㎡、現在は国家宗教局が使用】

 

故宮につづいて貴族、役人、庶民といったように、それぞれの等級に応じて、四合院の様式(面積、配置、建物・門・屋根などの造作や装飾)は厳格に決まっていました。こうして多種多様な形の四合院が現在まで残り、我々の目を楽しませてくれています。

 

【銭糧胡同の大雑院。門の上に置かれた電気メーターは10個、それだけの世帯が住んでいると想像される】

 

四合院は時代とともに変化します。1949年、新中国ができて以降、貴族や地主が住む四合院は接収、没収、占拠など様々な事件に遭いました。それによって、兵隊、農民、労働者などいろいろな人たちが四合院に入り込み、一つの棟ごと或いは一つの部屋ごとに一つの家族が住むようになります。つまり、四合院は日本でいう集合住宅(アパート)になったのです。そのため、中国では、このような四合院を大雑院(複数の家族が雑居する四合院)と呼ぶようになりました。

 

【ある四合院の内部。門を入って直ぐの左右にあるレンガ積みの小屋が地震の後に建てられたもの】

 

大雑院はさらに変化します。1976728日、唐山大地震が発生し、24万人以上が亡くなられました。この大地震では、北京も相当な被害を受けました。中国の人たちは地震に慣れていないこともあり、一旦、地震が発生すると大きな恐怖を感じるそうです。なおかつ、住んでいる四合院は防御性は優れているが、耐震性はほとんど考慮されていないため、その恐怖は一層高まるのです。余震も長く続き、その間、北京の人たちは公園や道路などでテント生活を余儀なくされました。豪雨に打たれ、酷暑に晒されながら彼らは考えました。「自分が住んでいる四合院は100年以上前の建物で倒壊の危険がある。そのため目の前の庭に小さくとも強固な部屋を新しく作れば、命をながらえ、不自由なテント生活からおさらばできるのではないか……」と。こうして隣家が建設を始めれば、我が家も始めるといった競争がはじまり、趣(おもむき)のある四合院の庭は所狭しと建つ小さなレンガ部屋に占領されていったのです。

 

【東四にある四合院ホテル】

 

2030年前まで、北京の四合院といえば複数の家族が一緒に暮らす大雑院がほとんどでした。しかしいまではレストランやホテルとして新しく生まれ変わった四合院が増えています。そのおかげで、我々外国人でも四合院を気楽に利用できるようになりました。また、10億円とか20億円とかいった巨額の金額で四合院が売買されるという話も聞きます。

その一方、大雑院では、昔(といっても新中国建国後ですが)から住んでいた人の大半は新しく建設された近代的なマンションに引っ越し、いま住んでいるのは地方からの出稼ぎ労働者がほとんどで、彼ら住民の意向や所有者の権利関係などが複雑に絡み合い、改築どころか補修もままならないといった話も出ています。

いずれにせよ北京の四合院はたいへんに貴重で価値があるものと思います。中国の人たちが三千年の歴史のなかで培ってきた知恵を使って、北京の四合院をよりよく保存していただきたいと願うばかりです。

 

【大門の両サイドにある門墩(もんとん。門の装飾とともに柱の基礎の役割も果たす)】






文・写真=北京事務所 谷崎 秀樹

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★本コラムについてはこちらから→【新コラム・北京の二十四節気】-空竹-

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